とろけるようなテロリズム



「はい、座って」


呼ばれるままにクッションの上へ腰を下ろす。ベッドに座った徹の長い脚の間。なんで正座なの、って笑われて、気恥ずかしさに俯きながらお姉さん座りへ変更する。なまえの頭、バレーボールより小さいんじゃない? 人の気も知らないで、可笑しそうに徹が言った。いまだ雫が滴る髪を、優しくわしわし拭いていく手があたたかい。


「そうかなあ」
「そうだよ。俺の両手で覆えるし」


徹の手は男の子なだけあって大きいから、だいたいの女の子は包めてしまうと思うのだけれど、まあ頭が小さいと言われて悪い気はしない。ありがたく受け入れながら目を閉じる。

頭上の少し後ろの方。テーマパークの鼻歌が軽快なステップを踏みはじめ、やがてタオルドライが終わると共に、ぶおーん。ドライヤー音が掻き消した。さすがはサロン御用達。なんせ髪の量が多い上に長い――切ろう切ろうと思いつつ、なんだかんだ踏み切れないまま気付けばロングになっていた――から、傷み以上に乾きやすさに重きを置いた数千円の物だけど、威力はプロのお墨付き。そのぶん熱くなりやすくって、手首を振りつつよそへ逃がしてあげなきゃいけない。

言わなくたって徹は分かっているらしい。威勢よく唸る温風は、時折端へとよけられた。


「熱くない?」
「うん。徹上手だね」
「ふふん、まあねー」


そういえば、お姉さんがいるって言ってたなあ。甥っ子にさえ遊ばれている彼のこと。きっと乾かしてあげたこともあるんだろう。さっきお願いした時みたいに、二つ返事で頷いて―――ああでも待って、二つ返事はちょっと嫌。渋々くらいが嬉しいな。血の繋がった姉弟だろうと、徹が進んで世話を焼くのは私だけであって欲しい。


項の方から頭頂部へと、長い指が移動する。差し入れられる手のひらが、頭の丸みにそってさわさわ髪を散らす。丁寧でいて手早くて、本当に上手。マッサージをされてるみたい。トリートメントの甘い香りが揺蕩って、心も意識も浮きたって。お姫さまって、こんな感じなのかなあ。

毛先に向かって梳いてく力に促され、ロッキングチェアよろしく体が揺れ動く。気持ちよくって心地いい。今すぐにだって寝れちゃいそう。


「ちょっとなまえ。まだ乾かしてんだから寝ないでよ」
「ん、……だいじょうぶ」
「のわりに首座ってないんだけど」
「ちゃんと起きてるよ」
「もー。信じるからね?」


半パン越し。筋肉質な太ももに、頬を当てて寄りかかる。人肌ってどうしてこう、安心感を容易く連れてくるんだろう。ずるいよなあ。声と温度と手と指だけで、こんなに私を満足させてしまえる徹、すごくずるい。



title 潤む
21.09.12

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