欠けないピースで君を埋めるよ



「なあなまえ、……なまえ?」
「え? な、なに? ごめん、聞いてなくて」
「いや、まだ呼んだだけ……ふっ、くく……なまえ、顔真っ赤……っ」
「っ! わ、笑わないでよ、今すごいいっぱいいっぱいなんだからっ」
「わかってるって。俺で照れてくれてんだろ? ありがと。すっげえ嬉しいしかわいーし、めちゃくちゃ好き」
「っ〜〜〜!」


ベッド上。朗らかに笑う悠仁の胸板に、火が出そうなほど熱い顔を押し付ける。もう本当、からかうのだけはやめてほしい。なんせ蝶よ花よと育てられ、中学からは呪霊に全振りしてきた身。男の子と一緒に寝るなんて初めてで、ただでさえどうしていいかわからないのに上手い対応なんて出来っこない。

筋肉質な体は私と違ってて、Tシャツ越しにくっつく温度はあたたかい。悠仁の厚い手のひらが肩や背中に触れる度、溢れた熱が鼓動をどくどく掻き立てる。いくら宥めすかしても、酸素とともに肺を巡る悠仁のにおいが落ち着かない。

べつにほら。ぎゅーされたりちゅーされたりは大丈夫。明るいところでイチャイチャするのは、お前以外見えていないよって言われてるみたいで嫌いじゃない。っていうか好き。でも照明不在の夜の底、悠仁の部屋の、悠仁のベッドで、悠仁の素足が絡まって。これで普通におねんねしなさい、なんて拷問だ。


「変なことしねえから安心して」
「うん」
「けど、我慢出来んくなったらごめん」
「ッ」
「ふはっ、うそ、嘘だって。俺も寝るよ」
「も……ばか……」


次から次へと追い打ちみたいにからかわれ、頭が全然回らない。おかしいな。すぐそこにある悠仁の心臓だってうるさいくせに、なんでそんなに余裕なの。

はい目ぇ閉じてー。玉犬よりは脱兎を撫でるみたいな手付きで、よすよす頭を撫でられる。苦しかったら言ってと優しく抱き寄せられて、必然私の体はすっぽりうずまった。


「おやすみ、なまえ」
「……おやすみ」


ほんの少しの息苦しさと、わずかな重みがのしかかる。とくん、とくん。鼓膜の奥で、二人分の鼓動が次第に重なった。こんなの眠れるわけないじゃんって思ったけれど、無理やり瞼をおろせば意外と落ち着いた。



title エナメル
21.09.10

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