共有とは永遠にも似て



二年生も誘って皆で見に来た花火なのに「ほら、あんた達はあっち!」と野薔薇に背中を押し出され、「また後でな」「ツナー」と手を振られ、別行動を余儀なくされた悠仁と二人で苦笑する。


「気遣われちゃったね」
「あ、そーいうこと?」
「たぶん。この前、野薔薇に聞かれて、最近悠仁と出掛けてないって言ったから……ごめんね。せっかく皆で来たのに」
「なんでなまえが謝んの。いいじゃん、花火デート。俺はちょっと憧れてた」


ほんのり照れくささが灯った笑顔に、罪悪感が拭われる。胸のあたりが陽溜まりみたいにぬくもって、自然と頬がゆるまって。

「私も」

微笑み返し、見物スポットに向かうべく、人混みの中へ踏み出した。


擦れ違う女の子達は、浴衣姿で可愛らしい。白に水色、ピンクや紺地に色とりどりの花や金魚が泳いでいて、悠仁の視線をさらってしまわないか不安になる。私も着てくれば良かったなあ。皆で行くし呪霊が出ても面倒だからと、動きやすさ重視で来てしまった。それでもサンダルから覗く爪は、キラキラ輝くオレンジ色。大丈夫。もう、ただのクラスメイトじゃない。気の引き方なんて付き合う前よりたくさんあって、でも何からすればいいのかな。楽しくお喋り出来たらいいのに話題が全然探せないのはもしかして、これって私、緊張してる? そういえば、いつも楽しく話してくれる悠仁も黙ったまんまだなあ。

とくとく高鳴る鼓動を抱え、隣を歩く。不意に横から飛び出てきたのは、知らない背中。友達とじゃれていたのだろう。ぶつかった拍子に体が傾き、悠仁の腕が抱えるように支えてくれた。あ、すみません。いえ、こちらこそ。男の子の気まずそうな声に会釈で応じ、反対側の悠仁を仰ぐ。


「ごめん。ありがと」
「どいたま。大丈夫?」
「大丈夫」


体は全然なんともない。ただ離れてしまった悠仁の温度が恋しくて、でもそんなの、恥ずかしくって言い出せないでいるところ。


「あー……なまえ?」
「うん?」


首裏を掻いた彼の視線が、空からこちらへおりてきた。躊躇いがちに、恥ずかしそうに差し出されたのは、大きな手。


「繋ご」
「……うん」
「よっし」


重ねた肌から滲みはじめた温もりが、嬉しさだとか驚きだとか好きだとか、次から次へと形を変える私の心を包み込む。こういうこと、結構さらっと出来そうなのに絡む指はぎこちなく。もしかして、悠仁もずっと緊張してた?


「花火、楽しみだね」
「な。俺こーいうイベントって全然来たことなくてさ」
「そうなの?」
「なんかタイミング合わんくて」
「じゃあこれからいっぱい行こうよ、いろんなとこ。私、悠仁とだったらどこだって楽しいよ」


パチンコ屋でも、と茶化してみれば、瞳を丸めた彼は吹き出した。あれは暇潰し。そんな弁明に私も笑い、どちらからともなく歩き出す。

ずいぶん鼓動も落ち着いて、いつもの調子に戻った頃。けれど繋いだままの手を握りなおす度、お互いちょっぴり、背筋が伸びた。



title 温度計
21.08.14

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