まことしやかな純真



可愛いものが好き。もふもふのうさぎとか、パステルカラーのネイルとか、ころんとまあるいマカロンとか。さすがに高校生にもなってふりふりひらひらは恥ずかしいけど、ランジェリーのレースや小ぶりのリボンはつい買ってしまう。なまえはそういうの似合うよな、って真希ちゃんが褒めてくれるせいもある。アクセサリーももちろんそう。身につけていると気分が晴れて、任務も結構楽しくなる。目に映るすべての感度が増幅し、色鮮やかに明度をあげる。

そんな高解像度の世界の中、ひと際目を引く人がいた。陽の光をきれいに透かす、銀灰色の男の子。長い睫毛が品良くふちどる瞳には、いつも明るい夜空が閉じ込められている。


「狗巻くん」
「?」


うん、今日も可愛い。

なんでもないよ、呼んだだけ。唐揚げをひとつつまんで差し出せば、狗巻くんは不思議そうにしつつも口を開いてくれた。

丸い頭のフォルムのせいか、それとも口元の紋様のせいか、なんとなくひよこみたいで可愛らしい。雛に餌をあげてる気分。狗巻くんなら是非飼いたい、なんて言ったら驚くかな。……いや、ないか。好きとか可愛いとか一家に一人いるべきだとか、今日ちょっと一緒に寝ない? お泊まりやだ? とか。一応TPOは弁えつつ、普段から結構口にしている。何を言ったところで今更だろう。ちなみにどれだけ口説きたおしても、ぎゅー以上のことは絶賛惨敗中。付き合っていない男女がひとつ屋根の下、はまずいらしい。なら付き合っちゃえばいいのかな。でも狗巻くんにも選ぶ権利は当然ある。そもそも私なんかが彼女だなんておこがましい。


卵焼きを咀嚼する。通り過ぎる風はすっかり冷たくて、色濃く薫る秋が鼻腔で吹き溜まる。もうすぐ終わる。高専二年目の夏が。彼の髪に太陽光が反射する、眩しい夏が移りゆく。


「すじこ」


不意に呼ばれて振り向けば、夜空色とぱっちりかち合った。真っ直ぐじいっと見つめられ、穴があいてしまいそう。どうしたの。箸を置いて問いかける。ウェットティッシュでお口を拭いた狗巻くんは答える前にジッパーを上げ、それから片手を持ち上げた。くるり。案外無骨な指先が、私の毛先を撫でては器用に絡めとる。


「高菜?」
「今日は言わないの、って、何を?」
「……めんたいこ」
「あー、口説き文句ね?」
「しゃけ」
「言わないっていうか、今は一緒にご飯食べれて満足してるかな。でも今日も可愛いよ。好き」
「……」


あれれ。ダメだったのかな。自分から言い出したわりに、変わらず至って真面目な視線は黙ってしまった。ちょっと凹んだ次の瞬間。いつの間にか巻きとられていた髪がくんっと引っ張られ、目と鼻の先、至近距離に狗巻くん。


「ツナ、いくらこんぶめんたいこ。……しゃけ?」
「……」


意外な言葉に数瞬鼓動が固まって、まったく頭が働かない。結局「しゃけ」と、肯定を示すおにぎりの具を借りた。『それ、他の人に言わないこと。……いい?』だなんて、え、待って。とうとう落ちてくれたんだって、勘違いしちゃったけどいいよね?



title 失青
21.09.12

back - index