背中を叩かれ、目が覚めた。
いつの間に寝ちまったのか。薄いカーテン越しに見える空は、まだ随分と明るい。まあ、風が冷てえだけで日射しは温い季節だ。窓さえ閉めてりゃ、自然と瞼は落ちる。


包むような陽だまりの中、あくびを一つ。

再び微睡み始めた頃、視界の端から飛んできた影を咄嗟に掴む。置物でも落ちてきたんかと思ったが、なんてことはねえ。ほそっこいなまえの腕だった。ついさっき俺の背中を叩きやがったのも、たぶんこいつだ。うぜえ。鼻でも摘んでやろうか。


振り向けば、随分と気持ち良さそうな寝息を立てて眠っている間抜け面。途端に毒気を抜かれた胸の内が、変な具合に凪いでいく。

幾分か歳をくったとは言え、ガキの頃と大して変わらねえ寝顔を見んのは久しぶりだった。相変わらずくそ悪ぃ寝相だ。いつだったか、床に蹴落としてやったことを思い出す。あん時はこのバカが風邪を引きやがったせいで、ババァにくそほど怒鳴られたっけか。


「………んん……」


上擦った小さな声に、意識を引き戻される。掴んだままの腕が身じろいだかと思えば、眉間にシワを寄せながらもぞもぞ寄ってきた。まあ、丁度いい。腕も脚も飛んでこねえよう、胸に埋まったなまえを抱き込む。

細いなりに柔らけえ体。なめらかな肌。太陽の匂い。二人分の鼓動。あったけえ体温。
風の音すら聞こえねえ、静かな室内。


「かっちゃん……」
「……起きたんか」
「んー……かっちゃ……」
「あ?」
「…………」
「……おい、なまえ?」
「…………」
「……寝言かよ」


せっかく返事を待ってやったってのに、
覗き込んだ顔は瞼を閉じたまま、幸せそうに緩んでやがった。

誰に許可得て俺の夢見とんだ、と思うものの、不思議と悪い気はしない。クソほど無防備で色気のねえ女だが、それでもそこそこ惚れてんだろう。呆れというよりは許容。なまえに対してだけは、割といつもこんなんだ。

結局起こさねえまま、腕の中に置いておく。抱き枕にしちゃ物足りねえが、青痣モンの寝相さえ封じりゃ、眠る上での支障はない。間違っても動かねえよう、少しばかりの体重をのせて脚を絡める。大人しく擦り寄ってくる様子に生まれた、あったけえ何かに誘われるまま、ゆっくり瞼をおろした。

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