触れると火になる類の永遠



 ペコッ。ストローを吸い上げると紙パックがへこんだ。さっき買ったばかりなのに減りが早い。さすがは乾燥の季節。いつもより喉が渇くらしい。体感的にも水分を欲する頻度が高いような気がする。
 仕方ない、買いにいこう。そう腰を上げかけた時、治に腕を掴まれた。


「何がええ?」
「ん?」
「いや、ん? やなくて。飲みモン何がええん?」
「え……っと」


 ごめん、ちょっと何を言っているのかわからない。まるで鼓膜が薄いヴェールに包まれているみたい。治の声は、ただ表面を流れていくだけで内側にまで入ってこない。
 放心状態の私を見兼ねて息をついた治は「適当に買ってくるからちょっと待っとって」と立ち上がった。え? やだやだ。


「待ってよ。一緒に行く」
「弁当置いたまんまになるやん。ええから、なまえはここにおって。な?」


 身を屈めながら伸ばされたのは、バレーボールさえも掴める大きな手。いつも私を安心させる手。年下なのに、ちゃんと男の人の手。
 くしゃりと頭を一撫でされてしまって、私の思考はきれいに止まった。見上げた先で治の瞳が小さく笑う。自動販売機に向かうのだろう広い背中が遠のいていく。……ダメだ、状況が呑み込めない。



 治は一つ年下の二年生で、同じクラスの北くんを介して知り合った。出会いはあいにく覚えていない。というより、いつ出会ったのか記憶にない。治は双子の片割れである侑と共にかっこいいと有名で、私は彼らが入学した当初から知っていた。
 一方私はアイドルでもなんでもなく、ただ親の都合で関東から関西へ引っ越してきただけの平々凡々な女子高生。特別成績が良いわけでもなく、部活にも入っていない。それなのに春頃、北くんに言われたのだ。


『後輩がみょうじのこと聞いてくんねんけど、ちょっと喋ったってくれへんか?』


 あの時、何を喋ったのか。あいにくぜんぜん覚えていない。治が私をいつ認識したのか、とにかく不思議でたまらなかった。おまけにお互い口数が多い方ではないから、あまり喋らなかったような気がする。でも嫌な気はしなかった。私と治には、それだけで充分だった。

 何度か顔を合わせ、なんとなくの流れで一緒に過ごす時間が増える内、当初クールだった治の印象は少年っぽさが垣間見える可愛いさへと変化し、隣にいればいるほど心が落ち着くようになった。なんだろうな。寒い季節にベンチに座ってココアを飲む。そういうホッと息をつける心地良さが生まれていった。気付けば傍にいる後輩、気兼ねなくなんでも話せる男の子、そんな感じ。

 夏休みに入って一週間が経った頃だったかな。治に呼ばれて試合を見に行った帰り際に告白された。あまりに突然で衝撃的で、心の準備なんて一ミリも出来ていなくて、これもやっぱり何と言われたのか覚えていない。好きやねんけど、みたいな、結構ベタな台詞だったと思う。



喉が渇いた。乾燥の季節。待っとって。自販機に買いに行く治。お金……、ええよ。


title alkalism
23.09.10

Request:及川or宮治
年下彼がちょっと背伸びするところが見たい。付き合ってても、付き合ってなくてもok。

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