永遠をあかるいすべてで描くきみよ




 デートをしよう。そう言い出したのはどちらだったか、正直あまり覚えていない。ただ一週間ほど前、そんな話をした気がする。
 確かあの日は暑かった。常に片側を稼動させ、体温調節をしていたように思う。幸か不幸か校外実習のパトロールでひったくり犯を追いかけ回し、やっと捕まえた日暮れのこと。

『轟くん! 夕陽! 夕陽きれいだよ! きっとたくさん頑張ったからだね』

 達成感に満ちた瞳で笑うみょうじの横顔は煌々と波打つ茜色に染まっていて、確かにとてもきれいだった。暑さも疲れも吹き飛んで、世界が数秒静止する。
 ああ、思い出した。光の中に佇んで少し、みょうじが言ったのだ。ねえ轟くん、来週の日曜デートしよっか、と。





「ねえねえ轟くん轟くん! クレープあるよ!」
「さっき食ってたやつか?」
「違う違う! さっきのはスコーンです」
「……そうか」
「あ、今違いがわからんって思ったでしょー! 見たらわかるよ。甘さの種類も違うし、まあ、美味しいのは一緒だけど」


 ほら早く。駆けていった後ろ姿を慌てて追う。「走ると危ねぇぞ!」と声を張れば「だいじょーぶ!」なんて、軽々振り返った笑顔が太陽の光を反射した。
 眩しい。みょうじはいつも、きらきらしている。

 それにしても疲れていないのだろうか。今日は朝からずっとこんな調子だ。朝日が見たいと丘の上まで連れて行かれ、街まで競走だと個性を駆使しながらそろって駆け下り、問答無用で五つ向こうの交差点をゴールと決められ、ビルからビルへ飛び移る。久しぶりの追いかけっこが楽しかったと笑うみょうじは本当に楽しそうで、悪い気はしていない。昼食は俺の好きなものをと言うから、蕎麦を食べた。
 思い返せば返すほど、いくらヒーロー見習いとはいえなかなかハードな半日だった。もちろん体力的な問題はないだろうが、そろそろ休んだ方が休日らしくていいのではないかと思う。
 けれど声を掛ける度、振り向くみょうじの眩しい笑顔に何も言えなくなってしまう。一瞬、時が止まったよう。世界が色鮮やかに停滞し、頭の中が霧散する。用意していたはずの言葉も思考もすべて消えて飛び立っていく。みょうじがいいなら、べつにいいか。そんな風に俺の口元まで緩むのだから、今更どうしようもないのだろう。


「轟くん! はーやーくー!」
「ああ、わりぃ」


 急かされるままに足を進め、呼ばれるままに隣へ並ぶ。
 ねえねえ私これがいい。ショーウィンドウの中、いろんなクレープのサンプルがずらりと並ぶ内のひとつを指したみょうじは、そう無邪気に笑った。俺はイチゴのやつがいい。





「はあ〜美味しかったあ」
「腹いっぱいになったか?」
「うん! 大満足」


 ナイフとフォークを器用に使い、特大クレープをぺろりとたいらげたみょうじは、少々膨らんだように見える腹をさすった。さすがにこれ以上は入らないらしい。言葉通り、満足そうでよかった。楽しそうでよかった。
 会計を済ませて店を出る。ありがとうございましたー。間延びした店員の声に見送られ、車道側を歩く。どこか行きたい所があるのか、みょうじの足はのんびりゆったり、けれどよどみなく進む。


「轟くんは?」
「?」


 たくさん遊んで街も平和で、なんだか眠たくなってきた。そう気が緩み始めた正にその時、不意にみょうじが口を開いたので、あくびは不発に終わった。


「満足してる? 楽しい?」
「ああ。こんな遊ぶの、初めてだ」
「よかった。たまにはいいもんでしょ、朝から出掛けて思いっきり遊ぶの!」
「ありがとな」
「どういたしまして」


 髪も瞳も頬も襟も茜色。あの日と同じ夕焼けの中、みょうじがきれいにきらきら笑う。次はもうちょっと余裕のあるデートが出来たらいいと思う。


title alkalism
24.1.5

Request:轟
自由人のヒロインちゃんに振り回される轟、轟くんが少し困ってしまう、でも嫌な気はしない楽しい雰囲気の話。関係性はお任せ。

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