ひと時の休息にて



ヒーロー育成の現場視察。
そんな名目で国から派遣され、初めて雄英高校に足を踏み入れてから一か月が過ぎた。

いつも通り、A組の担任である相澤さんの仕事を手伝った後。車に乗って数十分で着いた先は、大きな図書館。

本がたくさんあって、落ち着ける場所に行きたい。そんな私の要望に「じゃあ時間もあるし、ちょっと出掛けるか」と、相澤さんが頷いてくれたことが、そもそもの始まりだった。


開けられたガラス戸は曇り一つなく、通り際に、コン、とぶつけてしまった頭をさする。
後ろについて入ってきた彼は、俯いて肩を震わせていた。どうやら笑っているらしい。失礼な、とは思うけれど、普段表情の変わらない彼が笑うのは良いことだと思い直した。

鼻腔をくすぐるのは、本特有のにおい。扉が閉まれば、シンとした静かな空間が広がる。
土埃が舞う戦場や、喧騒が渦巻く街中なんかより、どこか異世界に迷い込んだような気にさせてくる、こういった場所の方が好きだ。


「相澤さんってよく知ってますよね」
「ん?」
「こういう図書館とか、ちょっと遠いとこのお店とか」
「まあ、プロだからな」


地形くらいは頭に入れているということだろうか。

いつの間にか、いつもの無表情に戻っていた横顔を眺めていると、節ばった手が本棚へ伸ばされた。軽くページをめくり、お目当てのものではなかったのか、元の位置へ戻す。

折角連れてきてもらったのだから、私も何か探そう。
そう目を配るも、ヒーロー学に関することは頭に入っているし、よくよく思えば、特に読みたいものもない。まあ、見たことのないものなら何でもいいか。

何の気なしに手に取った漫画を開く。
それは、個性を持つことが普通である現代からは想像も出来ないほど昔の日本が舞台で、剣豪と呼ばれた宮本武蔵を題材にしているらしい。
豪快なタッチで描かれている主人公の容姿に、目を見張ったのは言うまでもない。鋭い目つきに、ボサボサの長髪。シャープな顎に無精髭。まさに、今隣で本を物色している相澤さんと、瓜二つである。


思わず彼と漫画を交互に見比べていれば「それは俺じゃない」と、大きな手に頭を鷲掴みにされた。ごめんなさい。

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