ぽす、と頭を預ける。高校生とは思えないくらい広くて逞しい背中は、スポーツマンらしく筋肉質で、少し硬い。
薄いTシャツ越しに、うりうり額を押し付ける。鼻腔をくすぐる柔軟剤の香りに、一静くんだって胸が凪いだ。暑い夏がやってきたら、ここに少しだけ汗のにおいが混じることを良く知っている。
「なあに?なまえ」
「構ってください」
「ふは、寂しくなっちゃったの」
「ちょっとだけね」
素直に頷けば、ぱちくり。驚いたように丸まった瞳が瞬いて「今日は甘えたモード?」って、ふんわり腕の中へ引き寄せられる。返事はしなかった。心地いい体温に包まれて、自然と力が抜けてしまった声帯では、何も言えなかった。それでも嫌な顔ひとつせずに笑った彼は、大きな手で、ぽんぽんと背中を撫でてくれる。
一静くんは、いつも優しい。
随分と貴重な一日オフを私に使ってくれるだけでなく、手を繋ぎたい時も、抱き締めてほしい時も、キスしたいなって時も、なんとなく察してくれる。私が笑えば、一静くんも笑う。構ってほしいと言えば、こうして許容してくれる。
初めて出会った一年と三ヶ月前から、私の世界はとってもあたたかくて色鮮やかだ。
「ね、撫でて」
「はいはい」
幼子のようにねだっても、ちゃんと頭を撫でてくれる優しさに甘える。こめかみをなぞった指先が、緩やかに髪を梳いていく。まるで壊れ物を扱うような柔らかさなのに、反対側の片腕は、しっかり私の腰を捕らえているのだから幸せだと思う。
「わがままでごめんね」って顔を上げれば「いくらでも言えばいーよ。わがままって思ったことないけど」なんて落ち着いた声が、心を包む。
ちょっと恥ずかしくて、くすぐったくて。照れ隠しに擦り寄れば、また一撫でしてくれた。
「俺もわがまま言っていい?」
「もちろん。私に出来ること?」
「うん。なまえにしか出来ないこと」
一静くんの手が後頭部へそえられる。
声はなく、音もなく。口を噤んだまま、ただ交わった視線が近づいて、つん、と触れた鼻先。
”言わなくても分かるよね?”
そんな声が聞こえてきそうな眼差しに射抜かれて、途端に跳ね上がった心拍が鼓膜を覆う。いつにも増して、艶っぽさを孕んだ空気。どんどん膨れる恥ずかしさを抑えながら、そっと唇を寄せる。
「……こんなの、むしろご褒美だよ」
「俺も、なまえのお願い聞く度にそう思ってるよ」