リビングからお菓子とジュースを持って部屋に戻ると、さっきまで大人しかった鉄朗は、人をダメにするクッションでダメになっていた。

お盆を折りたたみテーブルに置きながら、一応「何してるの?」って聞いてみたけれど、やっぱり「ダメになってマス」ってもごもご答える。大きな黒猫が寛いでいるようで、なんだか可愛い。それダメになるよね。わかるわかる。私と鉄朗のお気に入りは、意外とかぶることが多い。


「コーラしかなかったけどいい?」
「ん、さんきゅ」
「あと適当に持ってきた」
「ん」
「鉄朗」
「ん?」
「起きないの?」
「んー……もうちょい」


気の抜けた生返事に思わず笑いながら、コーラを注ぐ。どうやら、すっかり落ち着いてしまったらしい。まあまだ時間はたっぷりあるし、せっかくのお休みなのだから、無理に起こす必要もない。そのままゆっくりしていてくれれば良いと思う。


「で、初めて彼女の部屋に来た感想は?」
「……とっても居心地が良いデス」
「そっか。緊張してたみたいだから良かった」
「あ、バレてた?」
「そりゃもう。顔がよそ行きだったし」
「マジか。いやさ、お前の親いるもんだと思ってたからよ」
「両方とも仕事だから安心して。夜まで帰ってこないよ」


寝返りを打った鉄朗を横目に、スナック菓子の袋を開ける。録画しておいたバラエティ番組を適当に選んでいれば、不意に伸びてきた手へリモコンごと捕まった。一瞬の沈黙が降りて、真っ直ぐ向けられたその瞳が、悪戯に細まる。何か見たい番組があるのか、それとも構ってほしいのか。

意図をはかりかねていると、強い力でぐっと引き寄せられた。

ぽすん。

傾いた私をクッションと鉄朗が受け止める。ふわりと広がったのは、嗅ぎ慣れた黒尾家の香り。ほんのり甘いムスクはたぶん、私がこの間プレゼントした香水だ。


「起きたらお菓子もあるよ」
「知ってる」


温かい体温に身を預けながら、相変わらずの寝癖がついた頭を撫でる。「なまえがいーの」と擦り寄ってくる姿は、やっぱり大きな黒猫みたいで可愛い。つい、にやけてしまっていけない。溢れる想いのままフレンチキスをしてやれば、もっととせがむように下唇を舐められた。

お家デート希望なんて珍しいと思っていたけれど、なるほど。いちゃつくにはとっても良いプランだ。

なんだか癖になりそうな熱に浮かされて、ただ一心に注がれる幸福へ溺れていくのも悪くない。

back - index