好きなやつがいる。

結構感性が似てて、聴いてる音楽とか、どこぞのメーカーの服がかっこいいとか、映画のどこが面白かったとか、そんなんも大体一緒。おまけに甘い物好きで、シュークリームの情報が入るなり、嬉しそうな顔で教えに来る。しかも買ってきてくれる時もある。そのタイミングがまたベスト中のベストで、なんか気分上がんねーなーって日か、なんとなく疲れてんなーって時が殆どだ。

ちょっと控えめで、ハンカチとか持ち歩く女子力もあって、喋ってみれば案外社交的で話しやすい。あと、普通に可愛い。笑顔が可愛い。それから、顔だけはイケメンな及川や男前代表の岩泉、フェロモン松川という手強い面々を差し置いて、俺が一番かっこいいって言ってくれる。

正直、靡かない方が無理だった。


出来ればそろそろ連絡先くらい知りたいし、名前で呼びたいし、なんなら、そんな順序全部すっ飛ばして俺のにしたい。けど、全然上手くいかない現状が辛い。
どうでもいい女ならサラッといけんのに、好きな相手となると、どうも息が詰まる。思い切って松川に相談したら「花らしくないね」って驚かれた。デスヨネ。俺もびっくり。


溜息を吐いた瞬間。すぐ後ろから聞こえたみょうじの声に、思わず心臓が跳ねた。慌てて振り向けば、頬にぷすって刺さる何か。すぐに引っ込められたそれは、細っこい指だった。


「へへ、引っ掛かった」
「………」


あー…その嬉しそうな顔、すげえ可愛い。
じゃなくて。


「悪戯っ子サンは何かご用事で?」
「え、用事あるの花巻でしょ?」
「うん?」
「さっき松川から、花巻が呼んでるって聞いたんだけど……あれ、違った?」


きょとんと丸まった瞳が、不思議そうに瞬く。向かい側でストローをくわえている松川に顔を向ければ、頼りになるでしょ、と言わんばかりに片口を引き上げられた。

マジか。いや、トイレの割には長えなと思ってたけど、マジか。せめて教えておいて欲しかったと心の中で恨む。でも有難うネ。昼休みにみょうじと喋れるのは嬉しい。さすがまっつん。


「まあ座りな」
「お邪魔します」


一先ず適当に引き寄せたイスへ招き、チョコレートをあげて誤魔化した。なんせいきなりのセッティングで、頭が回らない。

いちごオレを飲みながら落ち着く。


「あ、そう言えば花巻さ」
「ん?」
「こないだ気になるって言ってたやつ、家にあったから貸すね」
「待って。どの気になる話?」
「映画だよ。ほら、アクション系の」
「ああ、おっけおっけ把握。ありがとネ」
「どういたしまして。明日持ってくるね」
「ん」
「このチョコ美味しい」
「でしょ?最近ハマってる」
「もいっこ貰ってもいい?」
「どーぞどーぞ」


チョコレートをさらっていく指を目で辿った先。幸せそうに華を散らす姿が、やっぱり可愛い。


「ね、今度試合あるんだけど来る?」
「行きたい!行ってもいいの?」
「もち。また近くなったら言うわ」
「ありがとー!楽しみ!」


心底嬉しそうな笑顔に、俺もつられて笑う。

そうして幸せな昼休みを堪能した頃、鳴り響いたチャイムに席を立ったみょうじは、ちゃんとイスを戻してから「また明日ね」って小走りで戻って行った。


「……花」
「うん?」
「今の流れで連絡先聞けば良かったんじゃない?」
「……………あ」


ごめんまっつん。
何かいろいろ満喫しすぎてとんでた。

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