「どう?癒されてる?」
「ああ。最高だ……」


少しくぐもった声に、思わず笑みがこぼれる。仰向けに寝転び、顔に猫を乗せている消太さんは、なんとも満足気に胸の上で指を組んでいた。猫も猫で居心地がいいのか、目を閉じて大人しくしている。「良かったねー」と軽く頭を撫でれば、しっぽの先で返事をしてくれた。

うちの猫は言わずもがな、ほこほこしている消太さんまでもが可愛くって幸せだ。日頃の疲れがほぐれているなら尚のこと。


二人分のグラスに氷をいれ、アイスコーヒーを注ぐ。貰い物のバームクーヘンとともにテーブルへ置けば、気付いた消太さんがのっそり起き上がった。抱いた猫を膝の上へおろし、双方すっかりご満悦である。あちこちに舞っている毛の掃除が大変だったけれど、お家デートに誘って良かったなあと思う。


「悪いな。休みの日に動かして」
「こんなの動いた内に入らないよ」
「……そうか」


あまり感情を宿さない瞳が、優しく細められる。付き合う前からずっと、この瞬間が好きだった。


窓越しに流れてくる微かな街の音と、穏やかな陽気。目に入れても痛くないくらいの愛猫は、消太さんの膝の上で撫でられる度に喉を鳴らしている。しっかり癒し役を担っているあたり、良く出来た猫だ。後でかつお節でもあげておこう。

そう思案しながらのんびりバームクーヘンを咀嚼していれば、不意に頭を撫でられた。節張った長い指に髪を梳かれ、なんとも言えないくすぐったさに肩を竦める。「消太さん?」と顔を向ければ、愛しさを孕んだ眼差しに包まれた。


「猫扱い?」
「いや、彼女扱い」
「……」
「ふっ、顔真っ赤だぞなまえ」
「もう……私で遊ばないでよ…」
「はは、悪い悪い」

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