三限目が終わった休憩時間。ふと画面が明るくなったスマホを見れば、スガさんからお呼び出しの連絡が来ていた。「ちょっと保健室行ってくる」と友達に告げ、バレー部の部室へ急ぐ。誰にも見つからないよう気をつけながら扉を開ければ、スガさんが掃除をしていた。


「ごめんなー。呼んだはいいけど意外と散らかっててさ」
「大丈夫です。手伝います」
「いいっていいって。座ってな」


相変わらず爽やかな笑顔が眩しい。どうやら掃除の手伝いにと呼び出したわけではないらしい。

とりあえず靴を脱いで、壁際の畳へ腰をおろす。うるさい鼓動は視線を逸らすことで宥めた。それなのに、片付け終えたスガさんがすぐ隣へ座ったものだから、再び音を立て始める。


「次サボっても大丈夫だった?」
「はい。保健室行くって言ってきました」
「お、悪い子だなー」
「人のこと言えないですよ」
「はは、それもそうだ」


平常心を装いながら普通に会話が出来ている私を誰か褒めてほしい。

拙い告白に、まさかのオッケーをもらって六日目。控えめなようでいて意外と大胆だったり、大人なように見えて悪戯っ子だったり、笑顔でサラッと毒を吐いたり。まるで王子様みたいだったスガさんが、案外普通の男の子だと知りつつある。雲の上の存在が急速に近くなったような感覚に高鳴り続けるこの鼓動は、いつもいっぱいいっぱいだ。


「あの、何か用事ですか?」
「用ってか、なまえとゆっくりしたいなあって思ってさ」


呼ばれた名前にドキッとして、僅かに触れた指先が震える。緩やかに繋がれた手が、熱い。

「顔真っ赤だぞー」なんて「あ、照れてんべ?」なんて、そんなのとっくに分かっているくせに、今日のスガさんは一体私をどうしたいのか。緊張とときめきで、最早呼吸さえ苦しい。そんな中、追い討ちをかけるように伸ばされた彼の人差し指が、唇へと触れる。


「先に言っとくけど、このことは誰にも言っちゃダメだからな」


喧騒から隔てられた、二人っきりの部室内。遠くの方で、四時限目の始まりを告げるチャイムが鳴った。

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