さらり。ふわり。

肌を撫でていくクーラーの冷風と、かさついた皮膚の感触。額に触れているこの体温は、きっと消太だろう。こめかみをなぞり、緩やかに髪を梳いては前髪へと戻ってくる。目は開けない。ふわふわとした心地に浮かされたまま、ほんの少し背中を丸めれば、一瞬止まった指先が目元を撫でていった。

訝しげな「起きてんのか?」は、寝たフリで凌ぐ。このまま消太に甘やかされていたかったし、もちろん疲れも溜まっていた。

私の個性が眠気を伴うことは、高校からの付き合いである彼が一番よく知っている。だからこそ、こうして仮眠室で眠っている私を起こすことは絶対にしない。時間が許す限り傍にいてくれて、いつも守ってくれる。分かりづらい優しさも愛情も、全て消太らしさの内の一つ。


相変わらず瞼は閉じたまま。頬をくすぐるその指先へ小さく擦り寄れば、ふっと空気が和らいだ。


「可愛い」


普段、とてもドライな消太が素直な感情を口にしてくれるのは、このひと時だけ。私が眠っている間だけ。


「あまり、無理はしてくれるなよ」


頭を撫でる大きな手。嬉しさについ緩んでしまいそうになる頬を抑えつつ、寝言を装って名前を呟けば「なまえ」と、呼び返してくれた。

あーあ。なんだか起きるの、勿体ない。

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