男子勢がお風呂へ行っている間、共用スペースは高確率で女の園になる。特に待ち合わせたわけでもないのに、自然と集まるのだ。丁度お腹が減る時間だからかもしれない。かく言う私も、お腹の虫に急かされておりてきた。

カレーをよそって、梅雨ちゃんの隣に座る。「なまえちゃん、ちょっといいかしら?」と可愛らしく首を傾けた彼女は、雄英内で一番の友達だ。今日出た課題かな。それともお出かけのお誘いかな。なんて嬉しく思いながら「何でも聞いて」と言葉を待つ。けれど、明日どこ行く?くらいのフラットさで紡がれた質問は、予想の遥か頭上を駆け抜けていった。


「爆豪ちゃんのどこが好きなの?」


何でそんなことが気になるんだろうか。ちょっと良く分からない。

正直、恋人である私が口にしたところで、つまらない惚気程度にしか聞こえないだろうと思うのだけれど、梅雨ちゃんは頬に指先を当てて「なまえちゃんのお話が聞きたいの」と笑った。あまりに可愛くて断れなかった。

仕方なく、カレーを咀嚼しながら考える。


まず見た目がいい。白くて綺麗な肌に、ルビーみたいな赤い瞳が良く映える。
たとえ目が吊り上がっていようと眉間に深いシワが刻まれていようと、顔が好き。黙ってたらイケメンだし、怒ってたらワイルドだし、笑うとかっこいいし、あどけない寝顔は子どもみたいで最高に可愛い。


「あら。轟ちゃんだってイケメンよ?」
「んー……美少年は胃もたれしそうなんだよね」
「ケロ」



そしてなんといっても才能マン。これをなくして勝己は語れない。料理もしかり楽器もしかり、人並み以上に何でもこなせるのは本当に羨ましい限りだ。
いくら恵まれているとはいえ、扱いが難しい派手な個性をあんなに上手く調節して自分のものにしているのは、生まれ持ってのセンスと努力の賜物だろう。ちゃっかり努力を怠らないところも結構好き。境遇に甘えるだけじゃなく、常に高みを目指す向上心は見習わないといけない。


「体育祭の一位宣言さ、あれ実現させた時はシビれたね。本人は不完全燃焼だったみたいだけど」
「強い人が好きなのね」
「んー……才能だけとか努力だけとか、そういう片方だけじゃない輝きを持ってる人が好きかな。梅雨ちゃんとか」
「ふふ、嬉しいわ」



後は、そうだなあ。
まるで当然のように、道路では車道側、駅では線路側を歩いてくれるし、エスカレーターは後ろに乗ってくれる。私にはあんまり怒らない上、暴言が飛んでくる回数も少ない。この辺は元々なので、ただ単に相性が良いのかもしれない。


「確かに、なまえちゃんに怒っているところはあんまり見ないわね」
「でしょ。あ、でもこの間エネルギーチャージのゼリー食べたら買いに行かされたな……」



粗暴なくせに、意外と周りを良く見ている人だ。体調が優れない時、いち早く気付いてくれるのはいつも勝己であったし、私の好きな食べ物や飲み物もサラッと覚えていてくれたりする。以前、一度だけ美味しいと言ったジュースを「てめえこれ好きだろ」と、押し付けられた時は本当にびっくりした。

好きだなんだは滅多に言わない。そのかわり、ちょっとセンチメンタルな時は、すぐに頼れる距離でいてくれる。一緒に寝たいとか、抱き締めて欲しいとか、基本的に私のお願いを拒否することもない。お決まりの台詞は「好きにしろや」。荒っぽい言葉遣いも、なんだろうな。男の子って感じで好ましい。ちょっとガラついた声も、寝起きの掠れた声もきゅんとする。

意外に嫉妬深くてすぐ拗ねるけれど、勝己のものだよって教えてあげたら機嫌は直るし、ちゃんと甘やかしてもくれる。少し高い体温に包まれているひと時が、心底心地いい。


「なまえちゃんも爆豪ちゃんも、とっても仲良しなのね」
「何だかんだね。大事にはしてもらってる」
「良かったわ。実は少し、心配だったの」
「まあ、あんなだから気持ちは分かるよ。ありがとね」
「どういたしまして」


ケロケロと可愛らしく笑った梅雨ちゃんの頭を撫でる。
優しくて素敵な仲間。それから、全てを奪っていく勝己と過ごせている私は、紛れもなく幸せの真っ只中にいる。

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