長いようであっという間の三年間だったと、思い出に浸る。きっとこれから忙しない日々が始まって、皆と顔を合わせることも少なくなるんだろう。少しだけ顔を出した寂しさに震えた涙腺は、ぎりぎり保った。マイナス感情で泣くくらいなら、良い三年間だったって笑いたい。


真っ青な空の下、皆の胸に赤や黄色や橙の花が咲いている。随分と盛大に執り行われた卒業式は無事終了し、夕方に先生を交えての打ち上げがある。それまでは、各々自由に写真を撮ったり談笑したり。

私も先生方と写真を撮っていれば「おいなまえ!」って、勝己の声が飛んできた。どうやら在校生に囲まれているらしい。当初に比べて精神的にも格段に成長した勝己は、さすがの人気だ。雄英きってのヒーロー科代表として、答辞を読んだだけのことはある。


「なあに?」
「なあにじゃねえわ!俺が呼んでんだからさっさと来いや!」


うん、まあ、俺様なところは変わってないかな。今マイク先生とのツーショット待ちなんだけど、仕方ない。

そこら中の視線を浴びながら、はいはいと返事をしつつ近寄る。勝己の隣へ並ぶ一歩手前。いきなりグイッと腕を引き上げられ、驚きに見開いた眼前に広がったのは、赤い瞳。悲鳴にも似た取り巻きの短い声があがってはじめて、公衆の面前でキスされたことを知る。


「俺ぁこいつと籍入れんだよ!わぁったら連絡先だなんだ聞いてくんじゃねえ!散れモブ共!!」
「おおお!お前らマジか!!」
「おめでとうなまえちゃん……!」


我慢の限界だったらしい勝己の怒声と周囲から沸いた歓声が、放心状態の私を容赦なく混乱へ追いやっていく。


「いつ決まってたんだ?」
「あ?今に決まってんだろ」
「え、それってなまえちゃんの合意なしってこと?まずない?」
「うっせえな。合意もクソも拒否権なんざねえわ」


待って。当事者を放って話が進んでるけど待って。そもそもちゅーする時は目を閉じてっていつも言って、ってそんなことはどうでも良くて、いやどうでも良くないけど、え、待って何?せき?席?咳?


「籍……?」


いつの間にか、ちゃっかり私の腰を抱いている勝己を見上れば、その薄い唇がむっすり尖った。


「ンだ。嫌なんか」
「そこまで追いつけてないんだけど……」
「ったく。だから、結婚すんぞっつっとんだ」
「私が?」
「ああ」
「誰と?」
「てめえ……俺以外にいやがんならぶっ殺すぞ」


瞬時に醸し出された不穏な黒い空気に、やっとのことで動いた頭が言葉を呑み込んでいく。爪先からせり上がった熱が心臓を覆って、喉を伝って。

めいっぱいの恥ずかしさに一歩踏み出し、勝己の首元へ顔を埋める。どんな顔をすればいいのか全然わからなくて、とにかく隠れたかった。

真っ暗な視界の中「なまえ?」と耳元で響いた低音に、口を開く。答えは既に決まっていた。たとえ拒否権をくれたって、使ってなんかやらない。

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