視界の端で、画面がふわりと光った。ロック画面に表示されている通知は『迎えに行く』。そういえば、今日は日曜日だなあ。

唯一のお休みを毎週私のために使ってくれる消太くんは、見た目にそぐわずマメな人だ。挨拶程度のやり取りは毎日続いているし、タイミングが合えば、電話を掛けてきてくれることも珍しくない。かといって頻度が多いかと言われれば、そうでもない。仕事が忙しいのか、連絡不精な私に合わせてくれているのか。

告白を受けてから早三ヶ月。好きな子が自分のものになった途端にだらける男が多い中、彼は、依然として愛情深かった。


残業を頼まれる前に手早くデスクを片付け「お先に失礼します」と、裏口から外へ出る。すぐそこで待っていてくれた消太くんは、私に気付くなり片手をあげた。


「ごめんね。有難う」
「気にするな。お疲れ」


助手席に乗り込んでシートベルトをしめた刹那、頬へ当てられた冷たさに肩が跳ねる。何かと思えば、私が好きなメーカーの缶コーヒー。「もらっていいの?」と聞けば「その為に買ったからな」なんて、くしゃりと髪を撫でられた。一瞬胸が鳴ったのは言うまでもない。

こんな時、どういう反応をすればいいのか。もっと余裕のある女だったら良かったけれど、あいにく消太くん限定で上昇する体温は誤魔化せそうにない。熱い頬を少しだけ冷やしてから、お言葉に甘えてプルタブをあける。横目で一瞥した消太くんは、ゆるく口端で笑って、それからハンドルを握った。


喉を通る冷たさと、舌の上で広がるほんのりとしたほろ苦さ。何より、さり気ない気遣いが仕事の疲れを溶かしていく。


「なまえ、この後あいてるか?」
「あいてるけど、どうしたの?」
「いや、食事でもと思ってな。明日休みだろ」
「そうだけど…消太くんは仕事でしょ?いいの?」
「ああ」
「ほんとに?しんどくない?」
「大丈夫だ。俺はお前と長く居られる方がいい」


ああ、顔が熱い。シートの上へ放り出していた手が握られ、溢れんばかりの想いに、つい頬が緩む。プロヒーロー兼教師として活躍している普段とは違う、こんなにも甘く穏やかな消太くんを知っているのは、きっと私だけ。

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