はいはーい、と手を挙げた三奈ちゃんが、赤い印のついた割り箸をぷんぷん振る。共用スペースに全員が揃っている今、A組は絶賛王様ゲーム中だ。ちなみにさっきの王様は瀬呂くんで、梅雨ちゃんと響香ちゃんが頬を寄せ合っていた。あまりの可愛さに写真を撮ったのは言うまでもない。

切島くんに促されて渋々参加している爆豪くんも大人しく、皆が出すお題が控えめなことも手伝って、和やかなムードが漂っている中、私が引いた割り箸には三の数字。瞬間、三奈ちゃんから発せられた番号に肩が跳ねた。


「三番と七番がハグ!」


あーあ。今の今まで運良く免れていたのに、とうとう当たってしまった。

番号の人ーって呼び掛けに軽く手を挙げつつ、女の子がいいなあと目を配る。けれど、挙げられたもう一つの手は予想外の人物で。


「と、轟くん、七番……?」
「ああ。七って書いてある」


見せられた割り箸の数字に、ぴくりと頬が引き攣る。男女の組み合わせだからか空気はワッと沸いたけれど、私の心中は穏やかじゃない。もちろん轟くんが嫌なわけではなく、むしろ無害そうで有難いとさえ思う。ただ、お題がいけない。現在進行形で痛いほど突き刺さっている横からの視線が、ものすごく怖い。


「えっと……恥ずかしいから、別のお題を……」
「だーめ!轟だし良いじゃん!」
「そういう問題じゃなくて……轟くんも変えてもらった方がいいよね?」
「?俺は別に構わねぇ」


あーー、そこは空気読んで頷いて欲しかったなあーー。

ものの見事に淡い期待を打ち砕いてくれた轟くんが恨めしい。恐る恐る鋭い視線を辿った先。眉間に深いシワを刻んでいる爆豪くんは案の定、瞬き一つせずに私を凝視していた。

まるで"ハグしやがったら殺す"とでも言いたげなその背後には、メラメラ燃える不穏な炎と般若が窺える。怖い。何で皆気付かないんだ。って言うか、そんなに嫌ならもっと表立って遮ってくれればいいのに、よっぽど私達の関係を露呈させたくないのか。どうせ時間の問題だと思うけれど、仕方ない。


「あ、アー……なんかお腹痛くなってキタナー……」
「え、大丈夫か?あっためるか?」
「あっためは大丈夫。ありがとね。ちょっとお手洗い行ってくるよ」
「何かあったら呼んでちょうだい。心配だわ」
「ありがと梅雨ちゃん。皆は続けてて。ごめんね」
「みょうじが謝ることねえよ!お大事にな」


結局、三番の割り箸を切島くんに託し、トイレへ行くことで事なきを得た。見え見えの嘘をついてしまったけれど、労わってくれる皆は本当に良い子だ。

後々「逃げたでしょー」と冗談混じりにつつかれたけれど、意外に嫉妬深い爆豪くんの怒りを買うより断然マシだった。

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