恋って不思議だ。なんでこんなにドキドキするんだろう。「おはよ」って笑いかけてくれただけで、どうしてこんなに嬉しくなるんだろう。目も耳も、気付けばいつも、彼の姿を追っている。もちろん、ヒーローを目指している上ではあんまり宜しくないことだって分かっているから、この気持ちは胸の奥で留めているつもり。

それでもやっぱり、切島くんの人当たりの良さとか、厚情とか、笑顔とか、ギザギザの歯とか、まあ挙げ出したらキリがないんだけど、好きだなあって思う。その度に、ちょっとだけ苦しさが生まれる。


「はぁ……」
「溜息なんか吐いてどしたの」
「響香ちゃん……」
「ん?」


昼休みの中庭。通りすがりの響香ちゃんは、パックジュースを飲みながら隣へ座った。どこかへ行く途中だったのだろうか。別に引き止めたわけではないけれど、何だか申し訳ない。


「なまえらしくないじゃん。悩みでもあんの?」
「悩みっていうか、誰にも言わないで欲しいんだけど」
「うん」
「……切島くんが、好きで」
「あー、うん」
「……あんまり驚かないね」
「だってあんた達付き合ってんでしょ?」
「へ?」


衝撃的な言葉に、思わず間抜けな声がこぼれた。どういうことだ。確かに随分と前から切島くんが好きだけれど、本人はおろか、相談すら誰にもしていない。

同様に驚いているまあるい瞳を凝視してしまえば「いや、だって……お互い"好き!"って感じじゃん。え、付き合ってないの?」と逆に引かれた。響香ちゃん曰く、A組女子や上鳴達の間では、既に定着している認識らしい。ちゃんと隠しているつもりだったのに、まさかそんな前面に出てしまっていただなんて。お互い好きって感じなのか。あれれ。


「お互いって、切島くんも……?」
「そうそう。"なまえ好き!"って感じ」
「か、顔に出てるってこと?」
「じゃなくてオーラみたいな……まあ、顔にも出てるっちゃ出てるな」
「うそ……全然気付かなかった……」
「ふはっ、鈍すぎ」


朗らかに笑った響香ちゃんに、ポンポンと背中を叩かれる。頑張りなよって応援が、嬉しくもあり恥ずかしくもあり、曖昧にしか頷けなかった頃。丁度切島くんも、似たような状況で真っ赤になっていたのは、また別の話。

back - index