わたしのIH



幼い頃からずっと傍にいられて、登校もお昼のお弁当も放課後の部活も全部一緒だなんて、そんなの狡くないですか。その内のお昼ご飯タイムくらい、私に譲ってくれたっていいじゃないですか。


「はじめくんはクソ川さんだけのものじゃありませんー!」
「クソ川さんって何さ!そもそも、岩ちゃんと俺の超絶信頼関係の間にお前が入る余地なんてないんだからね!」
「それは知ってますう!だから朝も放課後も我慢してるんですう!」
「じゃあ昼も我慢しなよ!」
「何でそうなるんですか!」
「おい、なまえも及川も落ち着け。声がでけえ」


はじめくんの声に渋々押し黙り、全然譲ってくれないクソ川さんを睨む。

何を言われたって、胸に抱いたはじめくんの片腕は絶対に離してなんかやらない。だって狡いじゃないか。私なんかクラスどころか学年も違うし、運動部でもなければ家が近いわけでもない。せっかくはじめくんの彼女になれたのに、何で幼馴染の、しかも男に遠慮しなくちゃダメなの。私だって隣が欲しい。


悔しくて、切なくて、ちょっと泣きそうになった刹那、はじめくんが動いた。左腕に引っ付いていたクソ川さんを振り払って、私の頭をぽんぽんと撫でてくれる不器用な優しさがあたたかい。

じわりと広がった好きを抑えながら「はじめくん?」と顔を上げれば「一緒に飯食おうな」って言ってくれた。胸がきゅんって締まって、わあわあ騒いでいるクソ川さんなんて、微塵も気にならなくなった。

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