優しい未来を馳せる



「おいコラなまえ。目ぇ閉じろや」
「ご、ごめん」
「何で開けとんだ」
「や、なんか、こんな至近距離で爆豪くん見れるって凄いレアだから、勿体ないなって思って……」
「は?んだそりゃ」


呆れ顔の爆豪くんに、もう一度謝罪を口にする。だって本当、こんなに間近で、その綺麗な虹彩を目に出来る機会なんてそうそうない。いくら恋人って肩書きがあっても、基本的に彼のスタンスは何も変わらないのだ。当然機嫌が良い時を狙わなければ、私のお願いを聞いてくれることもない。

でも、今回は目を閉じなくちゃ。せっかく"そろそろキスがしたい"だなんて随分恥ずかしい私のワガママを聞こうとしてくれているのに、臍を曲げられてしまっては元も子もない。


「ごめんね。閉じる」
「おう。早よしろ」


あたたかい指先に輪郭をなぞられ、おとなしく瞼をおろした。途端、いつもの強引さからは想像も出来ないくらい緩やかに、顎をすくい上げられる。空気が揺れて、吐息が触れて、存外優しく重ねられた唇。ドキドキと高鳴る鼓動に覆われた鼓膜がしっかり拾ったのは、爆豪くんの小さな独り言だった。


「たく。俺の顔なんざ、これから嫌ってほど見れんだろが」

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