さらわれた全て



うとうと、うとうと。

今にも閉じてしまいそうな瞳。彼特有の撫で肩が、ゆったりとした振り子のように、小さく揺れる。


昨日の演習で、ずいぶんと体力を消耗してしまったらしい。暖かい陽射しに誘われている姿がなんとも可愛らしい、と瞳を細めた刹那。こぼれたあくびに苦笑しながら、持ってきてくれたDVDを袋にしまう。
どうせまだ、時間はたっぷりあるのだ。DVDは晩ご飯を食べながらでも観ればいい。

暖房の生暖かい風。ぽかぽかとした柔らかな陽射し。目前には、半分寝ている勝己。何をしても怒らなさそうだ、と、頬に触れる。名前を呼べば、緩慢な動作で振り向いた。


「眠い?」
「るせえな……別に眠かねぇ」
「うそ。ベッド使う?」
「……」


少しの沈黙の後、聞こえてきたのは、いつもより覇気のない舌打ちだった。声をかける間もなく、ゆるりと伸びてきた片腕に囚われる。

せっかくふかふかのベッドを貸してあげるって言ってるのに、どうやら暖房のついたカーペットの方がお気に召したらしい。一緒に寝転がって、促されるままに逞しい腕へ頭を預けると、ほんのり甘い香りが鼻腔を抜けた。


人肌というのは、どうしてこうも落ち着くのだろう。
心地いい温もりが広がっていくにつれ、意識もふわふわと浮いてしまう。きっと、一定の緩やかな速度で鼓膜を包む、この心音がいけない。


「いい時間になったら起こしてね」
「てめえで起きろや……くそなまえ……」


数ミリだけ開いたままの瞼から、眠そうな赤が覗く。ほんの少しだけ、眉間に寄せられたシワ。
愛しい人。今この瞬間だけは、声も視線も体温もなにもかも、私だけの人。幸せな時間に頬が緩んで、思考が溶けだす。

とくん、とくん。ふわり、ふわり。

きっと、この暖かい陽射しが夕陽に変わる頃には自然と目が覚めるだろう。だからもう、アラームはいらない。


「……だいすきだよ」


瞼をおろして、そっと身を寄せる。


「ん……俺もすき」


白んでいく意識の中、いつもより柔らかく響いた勝己の声は、とても優しく舌っ足らずに、私の全てをさらっていった。

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