一掴みの愛想
ぴくりと震えた指。大きくて少し冷たい手を引いて、制止の声なんて聞かないままにデパートへと連れ出す。あんまり笑わない賢二郎が少しでも楽しんでくれたら、なんて。そんなのはただの建前で、単に私が一緒に過ごしたかっただけ。
「ねえ、あれ飲みたい」
「さっきコーヒー飲んだばっかじゃないですか」
「小腹も空いたよね。ケーキとかありそうだし、三時のおやつにしよー」
「俺の話聞いてます?」
くんっと手を引かれて振り向けば、呆れ顔の賢二郎。ちょっと拗ねてるのかな。あまりの可愛さに「聞いてるよ」ってくすくす笑えば、不服そうに眉を寄せながらもカフェに入ってくれた。
通されたテーブル席へ、向かい合わせに腰を下ろす。パンケーキの写真に心が躍って、でも、離さざるをえなかった手の温もりが恋しくなったりもして。
賢二郎は、そんなことないのかなあ。
栗色の瞳に、私が映る。
「楽しくない?」
「はい?」
「私といるの、嫌かなって」
自分の言葉にちょっと悲しくなったところで、ほんの一瞬聞こえた吹き出し音。仕方ないなって感じの、およそ年下とは思えない笑みに目を見張る。
「何年俺の先輩やってるんですか。嫌ならとっくに言ってますよ」
「じゃあ嫌じゃないってこと?」
「好きですよ。なまえさんといるの」
不意打ちの"好き"に、どくんって胸が鳴る。そんな台詞、ドリンクを選びながら片手間に言うなんて反則です。