足並み揃えてまた一歩



出久に下の名前で呼ぶ許可をもらって一ヵ月あまり。最初の内は、吃ったり赤くなったり目が泳いだりしていた彼もだんだん慣れてきてくれて、ようやっとデートが出来た。いや、デートって浮かれているのはたぶん私だけで、出久は、荷物持ちに連れて来られたのかなあ程度にしか考えていないだろう。でも、それでもいい。私が今日頑張れば、それでいい。


「ね、プリクラ撮ってから帰ろ」
「えっ、僕とでいいの……?」
「もちろん。出久と撮りたい」


大きな瞳をぱちくりとさせて、照れくさそうに頬を緩める姿のなんと可愛いことか。そのくせ、いざって時にはかっこいいんだもんなあ。んふふ。思わずにやけてしまいそうな頬を適度に引き締めながら、百円玉を二枚ずつ投入する。カラフルな背景を選んで、撮影スペースへ並んで立って。うん、大丈夫。用意してきたメッセージカードは、ちゃんとポケットにある。


「一番最後だけ、目瞑って撮ろ?」
「うん。良いよ」


快く頷いてくれた優しさに微笑み、機械の声に合わせてピースをする。ラスト一枚。私も目を瞑る、と見せかけて、さっき確認したハート型のメッセージカードをカメラへ向けた。

上手く写ったかな。変な反応されないかな。そんな不安を胸の奥へ追いやりながら、気付かれる前にポケットへしまう。「緊張したー」なんて笑う出久と共に、いそいそ落書きコーナーへ。

いつ気付くかなってドキドキ。
断られるかなってハラハラ。

さっきからうるさい鼓動を宥めつつ、表示されている画面へペン先を滑らせていれば、不意に空気が揺れた。


「なまえ、ちゃん、」
「うん?」
「っあの、こ、これ、僕宛……?」
「……うん。そうだよ」


首も頬も耳も手も。もの凄い勢いで赤くなって固まる姿に、ちょっとの不安と心配は、綺麗に飛んでいく。

一番最後に撮ったプリクラ。目を瞑っている出久を背景に写したカードには、少し震えが窺える私の下手くそな文字。機械から吐き出された落書き済みのそこには、出久の恥ずかしそうなお返事が書かれてあった。


『好きです。彼氏になってくれますか?』
『よろしくお願いします』

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