両手に華
「みょうじ、一緒に帰らねえか」
予想の範囲を見事に超えたお誘いに、思わず教科書をしまう手が止まる。聞き間違いかと耳を疑ったけれど、視界の真ん中にいる轟くんは、至っていつも通りの表情だった。何か相談事でもあるのか。お役に立てるか分からないけれど、まあ、せっかく声を掛けてくれたのだからと口を開きかけたその時、教室に響いたのは、私の声ではなかった。
「こいつは俺と帰んだよ」
ぐいっと引かれた腕。よろけた体が傾いて、すぐに支えられる。私の隣を陣取る爆豪くんは、さも当然のような顔でそこに立っていた。
「約束してたのか?」
「や、全然……」
「うるせえ。俺が今決めたんだよ。おら帰んぞ」
「待てよ爆豪。先に声掛けたのは俺だ」
「あ"?関係ねえわ下がれや舐めプ野郎」
「みょうじの返事も聞いてねえ」
「だから関係ねえっつっとんだろが!」
「ちょちょちょちょっと二人とも落ち着いて!」
今にも火花が散りそうな爆豪くんの右手を握って宥めつつ、轟くんの背中をぽんぽんと叩く。喧嘩は絶対的によろしくないし、教室で個性を使おうものなら相澤先生も黙っちゃいない。かと言って顰めっ面の爆豪くんが引き下がるとも思えず、仕方なく悩んだ末「三人で帰ろう?」と苦し紛れの提案を絞り出した。
案の定「は?」って言われたけれど、どうせそこからそこまでの距離だ。轟くんの相談は、寮に帰ってからゆっくり聞けばいい。
二人が呆気にとられている内にカバンを背負う。爆豪くんと轟くんの手を握って駆け出してしまえば、後はこっちのものだった。