呼吸が楽になるまでの逢瀬



薬は飲んだ。後はひたすら、現在進行形で押し寄せている下腹部の痛みが通り過ぎるのを待つだけ。背を丸めて、お腹を押さえて、蒸し暑いベッドの中でただ耐えるだけ。今月は少し遅かったからか、いつにも増して酷い。そんなことさえしっかり把握してくれている爆豪くんは、さっきからずっと、背中と腰の間あたりを摩ってくれている。


「おい、息詰めんな。唸って良いから吐け」


苦しくて、気持ち悪くて、痛くて、辛くて。返事もろくに出来ない申し訳なさを胸に、は、と吐息をこぼす。本当は、息をする度にお腹が動いて痛い。いくらか止めていた方がまだやり過ごせる。けれど、以前そのせいで過呼吸を起こしてしまったことも、彼は良く知っていた。


「なまえ」


私の名前を紡ぐ声が、鼓膜を通して全身に浸透していく。ぶっきらぼうで、優しい余韻。いつもは呼ばないくせに、こんな時だけ甘やかしてくれる。

彼の性格からして、気合いでなんとかしろや、とか、んなことで弱ってんじゃねえわ、とか言いそうなのに、絶対的に抗えないこの痛みにだけは理解があった。きっと男の人には分からないからこそ、重く見てくれているのだろう。


また詰まりそうな息をなんとか吐きながら、シーツの上に指を滑らせる。瞬間、ぎゅっと強く握ってくれた大きな手。探そうと思っていた温もりは、安心感とともに容易く与えられた。

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