天秤にかけたとて



「なあ、ごめんてなまえ」
「………」
「ほんまに知らんかったんやって」
「知らんかったで済んだら警察要らんわ」
「小学生か」


侑の重い溜息に、そっぽを向く。

事の発端は五分前。お風呂上がりにでも食べよう思って、大事に大事にとっといたプリンをあろうことかこの男が食べよった。別に一つしかなかったわけやない。ちゃんと侑と治にもって、合計三つ買ってきた。普通分かるやんか。冷蔵庫に見慣れんプリンが三つ並んどったら、ああ誰か買ってきたんやな、自分と俺とサムの分なんやな、って。しかもビンに入ったちょっと高級なやつや。何で三つも食うねん。アホなんか。腹減ったんやったら飯食えやアホ。


「……そんな食われたなかったんやったら、名前書いといたら良かったやんけ」
「はあ?私が悪いって言いたいん?」
「そんな言い方してへんやろ。何やねんその態度。こっちが悪いなあ思って素直に謝っとんのに、気ぃ悪いわ」
「ああ、さいですか」


呆れと一緒に出かかった文句を嚥下する。その謝罪に微塵も誠意込めてへんくせによう言うわ。これ以上言い合ったところで、きっとイライラが募っていくだけ。あーあ。体育館の補修工事で部活が出来へんせっかくの貴重な土日休みやのに、まさかこんなんでおじゃんになるやなんてね。

今出したばっかりのお泊まりセットをリュックに戻して背負う。途端に侑の目が丸なって「ちょ、どこ行くん」って腕を掴まれた。何やねんもう。


「気ぃ悪うさしてもてえらいスンマセンデシタ、ってことで帰ります」
「え、泊まるんやなかったん」
「そのつもりやったけど、お互いそんな気分とちゃうやろ」


ぷんぷん腕を振って抗議すると、離すどころか逆に引っ張られる。まさか鍛えとる男子高校生の腕力に勝てるわけもなく、呆気なく傾いた体は、迷わず侑の腕ん中へダイブ。そんまま無駄に強い力で抱き竦められたが最後、身動ぎすら出来へんくなった。耳元で響いたんは、くぐもった「ごめん」。

俺は泊まってって欲しいってボソボソ言う侑のことは、同じプリンを買ってくる条件付きで、とりあえず許したった。

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