猫恋慕



何かと気に掛けてくれる相澤さんは、一切頓着がなさそうな見かけによらず、意外ときっちり仕事をする。そう気付いてからというもの、要請先に彼のヒーロー名があると、なんとなく安心するようになったある日。本来の姿で猫集会に参加し終えた帰りに、ばったり遭遇した。

塀の上でお行儀よく前足をそろえて、ぺこりとお辞儀。「ああ、どうも」なんて返ってきた愛想のない声に笑いながら地面へ降り立ち、人の姿へ変身する。猫と話す時は猫、人と話す時は人の方が、何かと都合がよかった。


「お疲れ様です、相澤さん」
「お疲れ様です。お出かけですか?」
「今から帰るとこです」
「そうですか。この辺なんですね、ご自宅」
「そうですそうです。良かったらお茶しません?」
「……いいんですか?」
「はい。あ、お忙しいです?」
「いえ、それは大丈夫です」


少しだけ見開かれた瞳が伏せられる。どうしたんだろうって思案して、まあでも嫌な様子はなさそうだからと、すぐに近くのカフェメニューへすり替えた。若い夫婦が営んでいる、ちょっと奥まった所にあるそのお店は私のお気に入りだ。静かで緑があって、照明も明るくない。きっと相澤さんも気に入ってくれるだろう。


じゃあ行きましょうって路地裏に入ったところで、視界の端を小さな点がちらついた。足を止めて、動きが鈍るまでじぃっと目で追って、ぱしり。開いた手のひらでは、蚊が息絶えていた。


「……本当の猫みたいですね、みょうじさん」
「ほんとの猫ですからね」
「え?」
「え?」

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