ラッキーハプニング



「みょうじ危ねえ!」って声が飛んできた瞬間に、退くなり何なり出来るだけの反射神経は、残念ながら備わっていなかった。

土埃とともに降ってきた切島くんは、きっと硬化を解除するだけで精一杯だったんだろう。結果的に全身でその体を受け止めてしまったのは、まあいい。まあいいよ。私のお尻と背中が痛いくらいで未来のヒーローが無事なら全然いいんだけど、ガッツリぶつかった唇に動揺が止まらない。


「っわ、悪ぃ……」
「や、うん…全然、私こそ……」


この場合は、どう対処するのが正解なんだろう。キスしちゃったねって悪戯に笑えばいいのか、ノーカンにしようねって何でもない風を装えばいいのか。でもでも、偶然の事故とはいえ、私としては思い出にとっておきたい気持ちが大いにあったりする。ああどうしよう。

意外と冷静に思考出来るかもしれない私と違って、目の前の切島くんはリンゴかなってくらい真っ赤だ。とりあえず、私の上から退いてもらうことから始めたらいいかな。

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