きっと幸せってこんな形



駅前で買ったフラペチーノ片手に、広い背中の半歩後ろを歩く。なんとなく視線が向かってしまうのは、ポケットに突っ込まれたままの右手。なかなか勇気が出なくて、繋ぐに繋げない爆豪くんの手。

不意に立ち止まった彼に合わせて、足を止める。振り向いたのは、いつもより穏やかなルビー。「ん」とぶっきらぼうに差し出された右手の意味が、一瞬理解出来なくて。戸惑ったまま、僅かに浮かんだ淡い期待をおそるおそる口にする。


「繋いでくれるの……?」
「それ以外に何かあんのかカス」


驚きとときめきに胸が鳴って、いつもの憎まれ口も舌打ちも、全然気にならなかった。

ちょっと強引にさらわれた左手に、爆豪くんの体温が滲む。皮膚の下さえも火照らせ、毛細血管を伝って全身に広がっていく熱は、もはや周囲の温度すら上昇させてしまっているかもしれない。その上、歩幅を合わせようとしてくれているのだろう。歩き出した彼の速度はスローペース。もちろん、こんなにちゃんと並んで歩くのは初めてで、身も心も落ち着かない。あの爆豪くんとデートが出来るだなんて、片想いを順調に募らせていたあの頃は思ってもみなかった。


「何にやけとんだキメェ」
「だって嬉しくて……爆豪くんも繋ぎたいって思ってくれてたの?」
「違えわ。てめえの視線がうるさかっただけだクソカス」
「えーー」


そう言う割に、繋いだままの手は離れないよう、しっかり握ってくれている。全くつくづく素直じゃない人だけれど、そういうところも引っ括めて好きなのだから、惚れた弱みっておそろしい。

ストローから吸い上げた氷が、舌の上で甘く溶けた。

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