十三回目が待ち遠しい



深い夜の真ん中で、煌々と燃え立つ青い炎を背に差し出された手は、あまりに脅迫めいていた。この手をとるか、焼かれて死ぬか。暗に突きつけられた二つの選択肢に、思わず笑みが浮かぶ。こんなやり方で手に入れても、本当の意味で自分のものにはならない。決してバカではない彼は良く知っている筈なのに、上辺だけでもいいくらい私を欲しているのか。

口元で弧を描いたまま、こちらを見つめる瞳がいやに真っ直ぐで、つい応えてしまいそうになる自分が可笑しい。会う毎に、誘われる毎に、随分絆されてきている。


「今日も熱烈なお誘いを有難う」
「どーも」
「十二回目かな?」
「もうそんなになんのか」
「手のかかる女でごめんね」
「そう思ってんなら、いい加減折れてくれよ」


呆れ混じりに笑った荼毘の手が、だらりとおろされた。疲れたのか、無駄を悟ったのか。どっちにしろ賢明な判断だと思う。絆されはしても、人殺し連合に靡くことはない。

「縛られたくないの」と微笑んでみせれば「知ってる。自由が良いんだろ」と歩み寄って来て、二歩先で止まった。緩やかに身を屈め、合わせられた視線。薄く開かれた唇の隙間。赤い舌が覗くその口腔から、綺麗な青色がゆらゆら漏れだす。まるで体内に炎を飼っているよう。このままキスしてやったら、どうなるのか。喉から熱を送り込まれて、内臓からちりちり燻されていくのだろうか。それはちょっと楽しそう。


「俺の個性は好きそうだな」
「そうだね。荼毘も嫌いじゃないよ?」
「嘘つけ」
「ほんとだってば」


ざらついた口元へ手を伸ばし、不安定な繋ぎ目を撫でてやる。細められた瞳が小さく揺れて、でも、気付かない振りをしたまま身を寄せた。唯一交わすことの出来る体温が、どうしてか恋しかった。


炎が消える。

辺りはすっかり闇に覆われ、本当は私を手に入れることなんて容易いだろう荼毘の腕に包まれる。「次は色仕掛けでいくかな」なんて冗談八割の声には、残り二割への期待を込めて「楽しみにしてる」と答えた。

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