帰る理由
四日間缶詰状態だった任務中、野薔薇から話は聞いていた。要は『クラスメイト(♂)の体が呪霊のせいで女の子になっちゃった!』っていう話。
正直あんまり気にしてなかった。そりゃ心配はしたけれど、野薔薇いわく『多少凹んでるけど別に普通』ってことだったから安心感が勝っていた。少し放っておけない一面はあるものの、基本的に前向き思考で明るさ満点な彼のこと。不測の事態でも悲観せず、むしろ女の子気分をウェイウェイ楽しんでいるだろう。そう思っていた―――のだけれど。
「良かった!月本ちゃんよりちっちゃくねえ……っ!!!」
真正面まで駆け寄ってきたクラスメイト(♂)こと菰野くん―――本当に見た目女の子になっててすごく可愛い―――は、渾身のガッツポーズを両手で決めた。瞠目する私に気付いてハッとするなり「ッや、あの、月本ちゃんの身長を貶したわけでは決してなくて! あっ、待って待って! 見た目こんなだけど俺です俺! 菰野……!」なんて途端に慌て始めたけれど、ごめん。ごめんね。全然耳に入ってこない。てっきりアトラクション感覚で楽しんでいると思っていたのに、え、なんだコレ。もしかして菰野くん、身長なんか気にしてたの……?
とりあえず「っていうか先におかえりだよね!? 月本ちゃん任務だったのにごめん……!」と未だあわあわしている彼をどうどう宥め、概要は把握していること、身長もお帰りについても気にしていないことをお伝えする。ようやく胸を撫で下ろせたらしい菰野くんは、申し訳なさそうに眉を下げた。ほんとごめんね、おかえり。そう、いつもよりひと回りくらい小さな可愛い手のひらで、私の頭を撫でてくれた。
―――うん、菰野くんだ。
浸透していく体温に、自然と頬がふんわり緩む。顔が小さい。声が可愛い。平べったくてごつごつしていた体のラインもまあるくなって、受ける印象はずいぶん柔らかな女の子。けれど皮膚の下に潜む温度はそのまんま。髪の表面を優しく散らす手付きだって変わらない。思いやりで形成された、陽だまりみたいにあったかくって気配り屋さんな菰野くん。私の好きな男の子。
「……ただいま」
ああ帰ってきたって、感じがするなあ。