休息



「ねえ月本ちゃん、ちょっと聞いてもいい?」
「なあに?」
「ずっと気になってたんだけどさ」
「うん」
「その、月本ちゃんはなんで呪術師になったの?」
「……」
「ッや、月本ちゃんめちゃくちゃ美少女だし、モデルさんとかアイドルとかいろいろ出来そうなのになんでかなぁーってこう、かる〜く思っただけで深い意味とかはなくて! だからあの、っ言いづらいとかだったら全然スルーしてくださいごめんなさい……っ!」


もう気遣い屋さんだなあ、ってくすくす笑う。ちょっと答え方を考えていただけなのに、あたふたしながらノンストップで言い切って、両手を合わせた菰野くんが可笑しくって愛しくて。私の表情が曇ったようにでも見えたのか。そうだとしたら、私の方こそごめんなさい。でも大丈夫だよ。言いづらいとか暗い過去とか、なんにもないよ。


「気にしないで」


すぼんだ肩をぽんぽん叩く。おそるおそるこちらを見上げたチョコレート色の瞳が綺麗。そんなに下手に出なくても、私が菰野くんに臍を曲げることなんてないのになあ。聞かれて嫌なことも全然ない。だって聞いてくれるってことはさ。別に恋愛的な意味じゃなくても、ちょっとは私のことを知りたいって思ってる、ってことでしょう? こんなに嬉しいことってない。

すっかり緩んでしまった口をゆっくり開く。


「呪霊が見えて、祓う才能があったから」
「へ……?」
「だから呪術師になったの」
「え、それだけ?」


刹那、またハッとしたように青ざめた彼の謝罪を慌てて制し「それだけ」って微笑みかける。今度は上手くいったのか焦る様子は微塵もなく、どころかホッとして見えた。

呪術師になったもっともらしい理由を強いて挙げるとすれば『私にしか出来ないことをやりたかった』。たぶんこの感覚が一番近い。でもこんなの、やっぱりあくまで後づけ程度。野薔薇みたいなかっこいい意志は持っていない。流れのままに泳いでいたら行き着いた―――いや、漂着した、かな。まあなんでもいい。とにかく、そんなところがせいぜいだ。やりたいこともしたいことも特になくって、ただ嫌なことを避けながら流されるままに生きてきた。人間関係も上辺だけ。だって皆、外っ側しか見てくれない。ちょっとだけ凹んでいたあの頃の私は、まさか自分に大切な人が出来るだなんて、考えつきすらしなかっただろう。


「菰野くんは?」
「俺? 俺はなんか、成り行き的な感じ。大変だったよもー。急に見えるようになって五条先生にスカウトされて、そっからはすっげー早くてマジ一瞬!」
「あ、わかる。任務出だすと曜日感覚なくなるよね」
「それな!」


やっとお目にかかれた彼の笑顔に、鼓動がとくとく弾みだす。もっと笑って欲しくって、苦手な話題作りに励む。

あと少し。贅沢なことは言わないから、だからせめてあとちょっと。青空の下、いつも真っ直ぐな菰野くんと二人っきりで過ごせる今が、あともう少し続きますように。