降りしきれスターチス


雨の音が木造校舎にこだまする。窓を叩くだけじゃない。壁や黒板の向こうから、雫が落ちる音がする。

パンダと真希は任務だろうか。まだ昼だっていうのに、薄暗さを纏った教室には棘だけが座っていた。私に気付くなり顔を上げ「ツナツナー」と、挨拶がわりに片手を振る。ブルーベースの肌が、やけに白く映った。

前の空席へ腰を下ろし、机を挟んで向かい合う。


「お疲れ、棘」
「高菜」
「皆は?」
「すじこ」
「やっぱ任務なんだ。棘は呼ばれなかったの?」
「しゃけ」
「そっか」
「こんぶ?」
「うん。私も今日は何もなし」


頬杖をつきながら微笑みかければ、棘の目元がやわらいだ。紫色のきれいな瞳が細まって、長い睫毛が時間の流れを忘れるくらい、ゆっくり瞬く。

「しゃけしゃけ」とお馴染みの具で頷いた棘は、じゃあなまえも一緒にゆっくりしようとでも言うように、優しく頭を撫でてくれた。大きな手のひらひとつ分の僅かな重みが心地いい。鼓膜をあやす静かな雨音と相俟って、心がほうっと落ち着いて―――。


「なんかいいね。こういう時間」
「しゃけ」
「ふふ。ね、もっと撫でてよ」
「! ツナマヨ〜」


嬉しそうな低声が、温度とともに滲みゆく。あったかくって柔くてまろい安寧が、ゆるむ頬に降り注ぐ。


title tragic