絡繰る赤い糸


学生の頃から不思議な人だった。およそつまらないだろう格下術師の任務完了報告を、いつもにこにこ微笑みながら聞いてくれる二つ違いのゆるい女性。呑みに行こうと駅前のバーに連れられて、何を頼むのかと思えばコーラとサイダーのローテーション。なんでも、アルコールが入ると眠くなってしまうらしい。それならどうしてこの店なのか。わけが分からず眉を寄せれば「七海くんの話が聞きたくて。ほら、お酒入った方が喋りやすくない?」などと、酒を呑まない口で言う。

仕方がないので世間話をいくつか繕う。ただ間を繋ぐためだけの言葉には惰性が多分に生きていた。それでも時折頷きながら、にこにこ嬉しそうにしている彼女が「七海くんさあ”良い人”で終わるタイプでしょ」とグラスを傾ける。


「だめだよ。たまには自分を出さなきゃ」
「必要ありません。というより、そもそもこちら側に戻ってからは自由にしていますよ」
「うんうん、嘘がヘタなのは相変わらずだね。でもまあいいよ。それならそれで」


ビックスバイトをグラスへ移した唇が、ゆったりやんわり弧を描く。やけにスローモーションで伸びてきたのは、つるりと光る丸い爪。


「送り狼、期待してるね」


腕に触れた淡いベージュが、青いシャツにシワを作った。


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