東堂に嫉妬する


へいブラザー、はいブラザー。さっきからやんややんや、うるさいのなんのってたまらない。あなたが今一方的に肩を組んでいるそのピンク色、私のなんですけど。

そう追い払えたらどんなに良かったか。まさか大好きな悠仁の前で嫉妬心を丸出しに、なんて出来っこない。だって悠仁、優しいんだもん。誰かを邪険にしたりしないし、ジェニファーローレンスとは似ても似つかない私と付き合ってくれている。あの堅物な伏黒さえ認める善人だ。せめて顔向け出来るよう、ちゃんと見合う女でいたい。たとえば事前に約束していたとか二人きりのデート中だとか、そういう正当な理由があるならもちろん割って入るけど、あいにく今はそうじゃなかった。たまたま校内で会っただけ。


あーあ。せっかくの悠仁なのになあ。

いいよね、東堂は。盛り上がれる共通の好みがあってさ。呪力の使い方も似ているし、同じ近接パワー型。しかも気軽に触れられる。私はそんな簡単に肩を組めないし、指先一本でさえ、どうしても躊躇いが先を行く。だって悠仁、固まるんだもん。一瞬だけど。こんなケツもタッパも普通な女をしっかり意識してくれているってことだけど、なんだかなあ。

思わずこぼれかけた溜息を喉の奥へ仕舞い込む。なんだかんだ悠仁の声は弾んでいるし、まあ楽しそうならそれでいい。独占するのはまたの機会にするとしよう。次はちゃんとデートに誘おう。嫉妬も落胆も呑み込んで腰を浮かせかけたその時、悠仁の声が私の名前を象った。


「なあ東堂、わりぃんだけどまた今度でもいいか? 今なまえといっからさ。ごめんな」


そう言えばそうだった。気が利かなくて悪かった。そんなようなことを言った東堂の背中を、けれど赤いフードは見送ることなく振り向いた。眉を下げ「ごめん。お待たせ」と苦笑しながら隣に座り直す悠仁こそ、私が恋した男の子。


【夢BOX/虎杖に絡む東堂に嫉妬する】