絆創膏を貼ってあげる


机を挟んで向かい合う。角がけずれた消しゴムで字を擦る虎杖の右手人差し指。第二関節の側面に、赤い筋が一本走っていた。

ぱっくりってほどじゃない。針を刺した後みたいに血が浮き出ているわけでもない。それでもなんとなく見ているだけで、目についてしまう。きっと紙かダンボールかで切ったのだろう。ああいう傷、地味なくせにピリピリ響いて痛いんだよね。でもたぶん、彼はそもそも気付いていない。虎杖は痛みにひどく鈍い人だった。青痣や切り傷だって、笑顔の裏に隠してしまう。

―――こんなん舐めときゃ治るよ。大丈夫。

そう言って、硝子さんを頼ろうとしない。もちろん、人より随分頑丈なことは知っている。とはいえ心配は拭えない。だから私が気を付けている。気を付けて、虎杖を見るよう意識している。いきなり呪術の世界に触れて、ど真ん中に放り込まれて。泣きつける人も帰る場所も、自分の中にはいなくって。そんな虎杖が、心の底からほっと一息つける居場所になってみたい。なれたらいいと、夢を見ている。


「虎杖」
「ん?」
「手、貸して」
「手?」


榛色の大きな瞳が瞬いた。頷きながら腰のポーチへ手を伸ばす。呪符と一緒に携帯している消毒液とポケットティッシュ、それからMサイズの絆創膏を一枚取って机に置けば、彼は「あー……」と苦笑した。なんともバツが悪そうに視線を逸らし、けれどおとなしく差し出されたのは、ちゃんと右手。なんだ。気付いてたんだね。


「ほんとみょうじって目敏いよな。良く見てるっていうかさ」
「誰かさんが放置しちゃうから心配なんだよ」
「あーそれは……嬉しいような、申し訳ないような……」
「いいよ。嬉しがってくれて」
「そ?」
「うん。笑ってる虎杖の方が好き」
「……へへ、そう言われるとなんか照れんね」


言葉通り、照れくさそうに弛んだ目元に微笑んで、人差し指へティッシュを添える。そうして軽く支えながら消毒液を少量かけた。沁みているのかいないのか。わからないから、どうも加減がむずかしい。普通ちょっとは皮膚なりなんなり引き攣るものだと思うけど、やっぱり痛みに鈍いらしい虎杖は、ほんの少しも動じない。顔色ひとつ変わらない。

とりあえず優しく拭き取り、絆創膏をくるりとひと巻き。「きつくない?」と尋ねれば「おう! いつもありがとな、みょうじ」なんて、なんにも分かっていないのだろう眩しい笑顔に照らされた。


【夢BOX/虎杖に絆創膏を貼ってあげる】