おはようより先に



衛輔って名前を呼ぶ。
なーにって嬉しそうに彼が笑う。
私の幸せは、そんな些細なことから始まる。


「もりすけー」
「なに、どしたのなまえ」


少し苦笑気味の声に微笑んで、広い胸板に鼻先を埋める。鼻腔をくすぐるのは嗅ぎ慣れた柔軟剤の香り。きっと戸惑っているだろう衛輔の柔らかな心音が鼓膜を揺らす。

とん、とん、と背中を優しく叩く大きな手のひらから伝わる温もりに、そっと目を閉じれば、暗闇でも、ほら、怖くない。


「眠いの?」
「んーん」


鼻先を擦り付けるようにふるふる首を横に振れば、可愛い見た目に似合わずごつごつした指に頬を撫でられる。
私の頬をつつくのは、綺麗に切りそろえられた爪先。


「なまえ」
「んー?」
「起きろー」
「んー…もうちょっとだけ、こうしてたいです」
「もう」


小さく吹き出す声が聞こえた次の瞬間、全身が彼の体温に包み込まれる。

今日は折角のお休みだから、ゆっくり寝起きの衛輔を堪能したかった。