あの子に片想い



どこにいても、何をしていても聞き分けられる声が俺を呼ぶ。「黒尾」って。「また忘れたでしょー」って、俺のスマホを放課後の体育館まで届けに来る。わざと忘れてんだってことは言わない。ただ「わりぃわりぃ。サンキューな」って、小さな頭を撫でてやる。そうしてお詫びを兼ねた礼(という名の、みょうじが好きなチョコレート)を買って、今度は俺が会いに行く。

研磨にはまどろっこしいやらわざとらしいやら散々な言われようだが、告白する勇気も度胸も残念ながらなかった。もしフラれたらたぶん死ぬ。だから別に、ほぼ毎日会えて話せてみょうじの笑ってる顔が見られる今のままで不満はない。


「みょうじいるかー」
「はーい。どしたの?」


教卓のド真ん前。まだ席替えをしていないらしい。以前居眠りが出来ないから嫌だと文句を垂れていた自分の席で、みょうじはひらひら手を振った。アーモンド型の瞳が不思議そうに丸まって、ぱちりと瞬く。そんな仕草でさえ可愛いと思いながらコンビニの袋を差し出せば、嬉しそうに笑った。


「昨日の詫びアンド礼な」
「全然良かったのに。いつも有難うございますぅ」
「いえいえこちらこそですぅ」
「やーでもほんと、私ばっかり貰っててなんかごめん……」
「んなことねーから気にすんなって」


俺はお前の笑顔をもらってるんで。なんてクサい台詞は心の中に留め、丁度空いている隣の席に腰を下ろす。あーここ良いな。毎時間こいつの横顔見れる。つーかせめて同じクラスだったらなー。朝練終わって研磨を送り届けて教室来たら、おはようって笑いかけてくれるこいつがいるんだろ。しかも毎朝。ぜってえ可愛い。

想像したらちょっとにやけた口元を片手で覆う。頬杖をついて誤魔化しながらみょうじを見遣れば、早速チョコレートの箱を開けていた。これまた嬉しそうに緩んでいる桜色の頬が何とも言えず可愛い。


「……なあみょうじ」
「ん?」
「おはよ」
「?」


たぶん今更?って感じなんだろう。きょとんとした瞳と見つめ合って少し。それでも変にからかわず「おはよう、黒尾」って名前付きで満面の笑みを見せてくれたみょうじは天使だった。やっぱ別クラスで良かったわ。普通に心臓もちません。



【夢BOX/黒尾が夢主に片想い】