午前6時の笑み



控えめな目覚まし音に瞼を擦る。しっかり私を抱いたままの片腕からなんとか抜け出し、小さく唸った背中をぺすぺす叩いて、耳元へキス。


「朝だよ」
「…んー……」
「起きて。今日朝練でしょ」
「……ん"、」


こくり。頷いた鉄朗は一分くらいじっとして、それから緩慢な動作で体を起こした。半分も開いていない寝ぼけ眼とかち合って、お返しのキスを頬に受ける。


「はよ、なまえ」
「おはよう鉄朗。よく眠れた?」
「そりゃもう。抱き心地最高ですよ」
「変態くさい」
「えー」


苦しくない程度に抱き締められ、自然と頬が緩んでいく。いつも枕を押さえながら眠っているその片腕が、私に回されていたからだろう。独特の寝癖は、普段と比べて随分大人しい。くしゃくしゃ撫でてやれば、満足気に口角を上げてベッドから下りていった。

顔を洗って歯を磨いて。鉄朗が身支度を整えている間に洗濯機を回す。彼にはお母さんがいない。だから、バイトがない日は出来るだけ泊まって、家事を手伝うようにしている。部の皆や友達には内緒。とはいえ、やっぱり大人しい寝癖が珍しいのか、やっくんや研磨くんなんかにはすぐバレてしまう。それが優越的で嬉しいのだと、鉄朗は言う。


「朝飯なに?」
「バターたっぷり食パンです。ベーコンも食べる?」
「食べる」


背中に引っ付いてきた温もりへ凭れながら、要望通りにベーコンを焼いてお皿に乗せる。

基本和食派な黒尾家だけど、この間お店で食べたのがとっても美味しかったから、今日はちょっとお試しだ。フライパンの中で焼いた分厚めの食パン。バターをたっぷり吸収したそれは、たぶん吃驚するくらいのカロリー量だけれど、まあ大丈夫だろう。きっとあっという間に消費する。

「美味そ」っていそいそ席についた彼へカフェオレを淹れ、隣に座っていただきます。もきゅもきゅ動く頬がなんとも可愛い。


「美味し?」
「ん、ちょー美味い。マジ出来た嫁だわ」
「ふふ。ぜひ貰ってあげて下さいな」
「もちろんですとも」


卒業したら一緒に住もうな。

恥ずかしげもなく真っ直ぐ放たれた言葉が愛おしい。いつの間に起きていたのか。扉の向こうで聞き耳をたてていたらしい鉄朗パパによろしくお願いされるまで、あと三分。