惚気て嫉妬のバカップル



トイレから戻ったら、治となまえが俺の席で弁当を広げていた。別にだからどうってことはないんだけど黙認するのもなんだかなあって感じで、人の席で何やってんの、くらいは言おうかと思案する。

てか何話してんだろ。弁当には一切手を付けないまま、身振り手振りでひたすら口を動かしているなまえの横顔は随分と楽しそうだ。時折ぽっと色付く桜色の頬が可愛いと思う。対して治はそんななまえには目もくれず(まあ見ててもムカつくけど)、別の意味で口を動かしていた。おおかた卵焼きに夢中ってところだろう。いつもツッコミ不在になるツインズは、治だけだと大人しいから面倒くさくなくていい。


歩み寄るごとになまえの弾んだ声が鮮明になる。人差し指を立てながら華奢な肩へそっと触れれば、案の定「お帰り倫くん!」と振り向いた柔らかい頬に刺さった。ふにって感触につい緩んだ口端を戻す。危ない危ない。治がいるってことを忘れるところだった。


「なんか楽しそうだね」
「どこがやねん。俺を頭数に入れんなや」
「元々入れてないし」
「自分もたいがいみょうじしか見えてへんな……」
「えーなんそれ嬉しい〜」
「待って。俺もってどういうこと?」


幸せいっぱいななまえのにやけ顔を微笑ましく思いながら席に着く。呆れ顔の治はウインナーを口に放り込んだ。


「ちょぉみょうじ、今の話もっかいしたってや」
「ええ……ご本人の前はちょっと……」
「ってことは俺の話?」
「せや。俺初耳やったけど、昨日こいつ告られとったんやろ? そん時お前が」
「ああああかん! 言うたあかん!」


目前で振られた細っこい手。倍以上のボリュームで治の声をかき消すことに成功したなまえは「ほんまやめて……」と俯いた。桜どころか林檎色に染まっている頬が可愛い。俺の話を俺に聞かれたくないってのも可愛い。

何にしたって絶対的な可愛さは揺るがないし、皆まで聞かなくたってどうせ惚気話だったんだろうって想像はつく。治の台詞と心底興味のなさそうな顔から察するに、たぶんなまえへ伸びた野郎の腕から庇って『俺のだから』なんて凄んでしまった時の話。我ながらちょっと出ばり過ぎたと反省したのは記憶に新しい。でも、俺が知らないなまえの話を俺以外の男が知ってるっていうのはなんだか虫の居所が良くない。それが例え俺についての話であっても、相手が勝手知ったる治だったとしても、だ。


弁当の包みをほどきながら「へえ」って呟く。


「治には言えて、俺には言えないんだ?」


ちょっとした意地悪のつもりだった。だって治に嫉妬なんてさすがにみっともない。だから悟られないよう、なまえの可愛い顔が見たくてついからかってしまう時と変わらないいつもの声色を意識したつもり。なのに、何で分かるかな。ただでさえ大きな瞳を真ん丸に見開いたなまえがぽつり。


「倫くんがヤキモチ妬いとぉ……」


うるさいな。気付いても口に出すなよ、そういうこと。




【夢BOX/角名くん大好き彼女が治に惚気て、彼女大好きな角名くんが嫉妬。バカップル(?)】