ただいま片側通行中



おはようって挨拶におはようって返す。いつにもまして眠そうなのは、たぶん昨日発売したゲームのせい。研磨くんと一緒に協力プレイがしたくて買っただけの私でさえ、すっかり寝不足なくらいだ。前々から楽しみにしていた彼は、きっとハマりにハマったことだろう。


「プロコン買った?」
「ううん。研磨くんは?」
「買った」
「やりやすい?」
「うん。ランク良いとこ目指すなら、買った方が良いと思う」
「あー……結構高かったよね?」
「さあ。七千円くらいじゃない」
「七千円か……」


うーん。高い。そもそもソフトで同額くらいは既に飛んでいるし、研磨くんと違ってバイトでお小遣いを賄っている身。ちょっとしんどい。まあ既存のコントローラーで出来ないことはないし、今月は無理かなあ。でも一緒にするならそこそこランクは上げておかないと足手まといだろうし、うーん。悩みどころ。

なんて考えている内にチャイムが鳴って、朝礼が始まる。横目に窺った研磨くんは、何度か欠伸をこぼしていた。よっぽど眠いのだろう。先生がいなくなるなり机に突っ伏した大きな猫目がこちらを向く。じ、と見つめられ「ねえなまえ」って呼ばれて、どきり。


「な、なに?」
「次の古典、ノート頼んでもいい?」
「あ、うん。任せて」
「ん。じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
「終わったら起こして」
「うん」


腕の中へ顔を埋め直した研磨くんが動かなくなった頃、そっと息を吐く。どきどき高鳴った鼓動を深呼吸で落ち着かせ、取り出したのはノートと教科書。

新作ゲーム発売の翌日、眠いからって理由でいろいろ頼まれるのは別に初めてじゃない。むしろ恒例になりつつある。それがどうしようもなく優越的で、嬉しく思う。研磨くんのために黒板を書き写すことも、揺すり起こして、ちょっとだけ掠れた眠そうな声を耳にするのも好きだった。




【夢BOX/研磨くんと片想い】