彼女だけ大丈夫
ソファに座り、控えめに触れた指を悪戯になぞる。ぴくり。途端に肩が小さく跳ねて、皮膚が震えた。それでも離すことなく私の手を握った聖臣は「ほそ……」と、息を吐いた。
「サーブ打ったら折れそう」
「折れない折れない。女の子は皆こんなもんでしょ」
「……って言われても、お前以外知らないから比べようがない」
じっとり寄越された視線に、思わず頬が緩む。私以外知らないんだって。まあそれもそうか。
潔癖なところがある彼は犬や猫はもちろんのこと、人に触れることさえ結構嫌がる。最初は私も、その内の一人だった。その他大勢、不特定多数の中の一人。伸ばした手は器用に避けられ、触るな汚いと顔を顰められたことさえある。それが今や、聖臣の方から繋ぎたいって申し出てくれるようになった。肩を並べて身を寄せても、もう怒られたりしない。なんて贅沢な特権だろう。中学二年で初めて恋をして約三年。距離感に悩みながら、それでも傍に居続けて良かったと思う。
「本当に私だけ?」
「ん。まさか疑ってるの」
「違うよ。嬉しいから確認したかったの」
「変な奴」
満更でもなさそうな視線に微笑んでみせる。けれど、少しと経たない内に伏せられてしまった。なんとなく陰った表情は、何か余計なことを考えている時のそれで。いっそ笑っちゃうくらいネガティブ思考な彼のこと。大方、自分は何人目の彼氏かとか、そんなところだろう。
普段はハッキリ物を言うくせに、恋愛事となると途端に押し黙るのだから困った。そこそこ経験してきたこの空気感を払拭する良い方法も、未だに見付けられていない。だからいつも、名前を呼ぶ。
「聖臣」
「……何」
驚かせないよう、そっと手を伸ばし、私より少し低いその体温に触れる。
「……なまえ?」
「寂しそうに見えたから、くっついたらマシかなって」
「別に寂しがってないし」
「そ? でもくっつきたい」
だって、折角のお家デートだ。
繋いでいた手を離し、がっしりした肩へ添える。身を乗り出して視界に入り込めば、聖臣は小さく息を吐いた後、これで良いかと言わんばかりに膝へ乗せてくれた。腰に添えられたままの大きな手が、くすぐったかった。