世界は鼓動で充ちている



風の音が苦手だった。大雨や雷なんかもそう。そもそも大きな音が苦手。高校生にもなって情けないとは思う。分かってる。分かってはいるんだけど、どうしても心細くて頼ってしまうのは、どうか女の子だからってことで大目に見てほしい。

枕元のスマホを手繰り寄せる。メッセージアプリを開いて一番最初に出てくる彼へダメ元で電話をかければ、まさかの四コールで繋がった。





「ごめん倫くん」
「何で謝んの。いいよ」
「や、呼んでもうたし……」
「呼んだって言うか、俺が勝手に来ただけじゃん」
「まあ、うん……有難う」
「おばさん達は?」
「旅行行っとー」
「あーね。お邪魔します」


後ろ手に玄関の鍵を閉めてくれた倫くんをつれて、部屋に戻る。

「何か飲む?」って聞いたら「え、寝るんでしょ?」って不思議そうな顔をされた。いやまあ、そりゃあ眠れないことを理由に電話したけれど、心配だからってわざわざ来てくれた彼氏に対して愛想なしってのは、さすがに申し訳ない。


何かいい言い訳がないものかと思考を巡らせる。でも、普段から私のことを何でも分かってくれる倫くんは、そんな罪悪感すらお見通しらしい。上着を脱いでベッドへ転がったかと思えば「おいで。なまえ」と、ゆるやかにシーツを叩いた。

もちろん逆らえるはずもなく、嫌なわけもなく。嬉しさいっぱいで隣へ潜り込む。刹那、窓の外を強く吹き抜けた風音に、肩が跳ね上がった。硬直した私がよっぽど可笑しかったのか。珍しく笑った倫くんに「俺がいて良かったね」なんて茶化される。ね、仰る通りでございます。


「ほんま感謝しかないわ……」
「大袈裟」
「そんくらい助かってるんよ」
「ふーん」


涼しい顔に似合わずしっかりスポーツマンな腕に包まれ、全身から温もりが伝わる。あったかい。鼻腔に広がるのは、倫くん家の匂い。

ドキドキしながら「ごめんな。明日も朝練やのに」って謝ったら「はいはい。もうそれ禁止ね」と、後頭部を引き寄せられた。必然的に胸元へ埋まり、私と同じくらいドキドキしている心音が鼓膜を塞いでくれた。