心の中は、まだ聞かない



授業が終わってすぐ。背中をつつかれて振り向けば、後ろの席の国見と目が合った。

いつも涼しい顔をしている彼の眉間には、なぜか薄らとしたシワが刻まれている。何か悪いことでもしたかなって不安になるくらいじっとり見つめられ、思わずたじろいだのは言うまでもない。一体何の用だろう。浮かんだ疑問を口にする前に、その唇が動く。


「お前、熱あるんじゃねえの」


控えめに伸ばされた手は、私の前髪を掻き上げながら額へと触れた。ひんやり冷たい温度が心地いい。友達や先生はもちろんのこと、親にすらバレなかったのに、意外な人に気づかれてしまったなあなんて、のんびり思う。


「何度?」
「さあ。朝は八度ちょっとだったけど」
「馬鹿じゃねえの。休めよ」
「大丈夫。別にしんどくないし普通」
「どこが」


国見は小さな溜息をこぼして、席を立った。机の間を縫って扉へ向かう姿を、ぼんやり目で追う。トイレかな。私との会話は終了したってことだろう。そう、視線を逸らしかけた時「何してんのみょうじ。行くよ」と呼ばれて、驚いた。

机の中に置いていた携帯を、慌ててポケットへ滑り込ませて駆け寄る。少しふらついた体は、国見が腕を掴むことで支えてくれた。案外逞しい男の子の手と力強さに、心臓が跳ねる。「それのどこが普通?」って声には、悔しいかな。ぐうの音も出なかった。


そのまま連れられた保健室で、先生に体調不良を伝える。とりあえず体温計で熱を測ってみると、九度手前まで上がっていてびっくり。ずっと傍についていてくれた国見の顔が、瞬時に曇った。普段はあんまり分からないのに、珍しい。言わんこっちゃないって視線に、苦笑を返す。

まあ確かに、いつもより体は熱いし呼吸もしづらいけど、思考は至ってクリアだし、異変といえばちょっとふらつくくらいだ。帰宅するほどのしんどさは感じられないからと、先生の提案を断って、壁際のベッドへ身を落ち着けた。額に貼られた冷えピタが気持ちいい。国見の指が、ゆるりと髪を梳いていく。


「また昼に来るから」
「ありがとね。色々」
「どういたしまして。あ、弁当あんの?」
「ううん。今日は購買」
「じゃあ何か買って持ってくるから、それまで寝てな」


軽く前髪をかき撫ぜられ、自然と瞼が落ちる。普段の国見からは想像もつかない一面に、何だろうな。ちょっと胸がくすぐったくなった。