濾したさやけさ



わたしの意識を引き上げたのは、カイロみたいにあったかい、大きな治の手のひらだった。はりついている睫毛を指の背で擦れば、軽やかな朝の陽射しが薄い瞼の向こう側から透けてくる。うっすら開けた視界の中、だんだん浮き立つ輪郭はわたしの部屋にあるそれぞれで、白む明度がアッシュグレーを引き立てていた。


「おはよ」
「……おはよ、治」
「よう寝たな」
「うん」


温もりを孕んだ双眼が、ふ、と弛む。


ただ単純に顔が見たい、少しでも長く傍にいたい。そんな気持ちは大前提で、治はたまに、わたしのところへやってくる。そうして時たま泊まってく。親公認の仲なので、今のところ問題は起きていない。

理由を聞いたことはなかった。ただなんとなく、気が休まらないタイミングってやつがあるのだろう。ツムのいびきうるさいねん、そうおどけてみせる瞳の翳り。どこか遠くを見ては伏せるその瞬間には気付いていても、言及なんて野暮だった。だって治は、自分で答えを出せるから。助けてよってSOSも、ちゃんと発せる人だから。嵩高い背が手のひら以上に大きいことを、よくひっついて眠るわたしは知っている。


「今日は朝練ないんだっけ」
「おん。そん代わり昼からみっちりやけどな」
「そっか。毎日がんばってえらいね」
「そうでもないやろ。好きでやっとるし」
「えらいよ。治は毎日えらい」
「なんやめっちゃあげてくれるなあ。ありがとう。なまえもえらいで」


嬉しそうな笑顔がやわらかくて眩しい。宝石やスパンコールのギラギラじゃなく、朝露みたいに澄んでいる。光を吸い込むほど透明で、なんだか消えてしまいそう。でも確かに触れる温度がある。

治が隣にいる空間は、わたしにとっても心地がいい。