ふやける夜話



 楽しい夜は、つい飲みすぎてしまう。とはいえ眠くはならないし、記憶が飛んだこともない。気持ち悪くもならない。お酒には強いと自負している。ただちょっと、ふわふわする。


「みょうじ、そこ段差」
「わ、」
「ちょっ!」


 背後から二の腕を掴みあげられて、力の強さにびっくりした。いくら太っていないとはいえ女性ひとり分の体重を片手で支えてしまえるなんて、さすがは元運動部レギュラーだ。危うく肩が抜けるところだった。もうちょっと丁寧に扱ってほしい。


「言わんこっちゃねえ」
「ありがとう花巻」
「どういたしまして。危なっかしくて目離せんわもう……」
「へへ」
「笑いごとじゃねーんだけど」


 花巻の恨めしげな瞳に悪戯心をくすぐられ、すぐそこにある頬をつつくと逃げられた。背が高いってずるいなあ。花巻が背筋を伸ばしただけで、もう届かなくなる。
 これ以上悪さをしないように掴まれた手が、花巻のポケットにしまわれた。


「手、あったかいね」
「おまえが冷てーのよ。さあ帰んべ、酔っ払いさん」
「送ってくれるの?」
「心配だからね」
「ふふ、ありがとう。ちゃんと送り届けてね」
「へーへー。お望みとあらばベッドまで送ります」
「え、卑猥」
「言い方」


 きゃらきゃら笑っていると、もうすぐ住宅街だから静かにな、と窘められた。
 花巻がしっかりしているなんて、なんだか変な感じだ。高校の頃は岩泉がみんなのお兄ちゃんで私達はふざけてばかりいたけれど、お互い大人になったみたい。

 言われたとおりお口はチャックして、繋いだままの花巻の手を握って遊ぶ。絡めた指はごつごつしていて節張っていて、たぶん私より二関節くらい長い。皮膚はちょっとかさついている。

 今度の誕生日プレゼントはハンドクリームにしようかな。ちゃんと塗らないだろうなあ。家に着いたらいろんなクリームがあるはずだから選んであげよう。段差から守ってくれたお礼にしたら、きっと花巻も笑って受け取ってくれるよね。