幸福に揺蕩う



毎日毎日飽きもせずに話を広げる担任の長い長いホームルームがやっと終わった。号令と共にカバンを引っかけて、誰よりも先に教室を飛び出す。

先生に怒られない程度の小走りで向かった先。ちょうど五組から出て来たはじめの腕に引っ付くと、一瞬固まった彼は「お疲れさん」って、反対の手でくしゃくしゃ頭を撫でてくれた。ごつごつした大きな手は、相変わらず温かくてちょっと乱暴で優しい。


「一緒に帰ろ」
「おー」
「今日は及川いないの?」
「みてえだな。またどっかで無駄な愛想振り撒いてんだろ」
「置いて帰る?」
「そうすっか」


悪戯な笑顔と躊躇いなく繋がれた手に鼓動が跳ねる。付き合いたての頃はちょっと指が触れたくらいで赤くなっていたのに、日に日に余裕を身につけていくはじめは本当心臓によろしくない。「教室前でイチャついてんなよなー」なんてクラスメートからの冷やかしにすら「うっせ」って笑うだけ。いちいち動揺したり、噛みついたり、照れたりしなくなった。

それだけ長い間傍にいるって実感が、胸の内側をじんわり占領する。何とも言えない嬉しさに頬が緩んで、やっぱり好きだなあ、付き合えて良かったなあって改めて思う。そんな瞬間が、日々の中にたくさん潜んでいる。たとえば、現在進行形で合わせてくれている歩幅なんかもそう。

はじめは、いつだって私を幸せにしてくれる。