今日しぬのかな



「なまえ、それ貸せ」
「大丈夫だよ。そんな重くないし」
「岩泉さー、なまえばっか気にしすぎじゃない?」
「別に良いべや。彼女なんだから」
「へーへーお熱いこって」


ああ、恥ずかしい。付き合ってもうすぐ半年。当初は、手を繋ぐことさえ口から心臓が出そうなほど緊張していたはじめくんは、なんというか、とてもナチュラルな男前に育っている。いや元々男前なんだけど、皆の前で堂々と公言するようになったし、それほど人目を気にしなくなった。たぶん、女の子って存在そのものに慣れてきたんだろう。

もちろん嬉しいし、相変わらずよそ見もせずに私だけを大事にしてくれる。ただやっぱり、ちょっと恥ずかしい。


「ほんとラブラブだよなー」なんてクラスメートの笑い声からすすっと逃げつつ、お言葉に甘えてダンボールを渡す。スポーツすら自発的に行わない貧弱な私と違って、しっかり鍛え上げられているその腕は軽々と持ち上げた。文化祭で使う予定の機材が入っていて、そんなに軽くはないはずなのに、一切重量を感じさせないところが流石だと思う。こうして惚れ直すのは、もう何度目か。

所定の位置へ運んでいく広い背中を、ついぽけえっと眺めていたら、軽く肩をとんとんされて振り向く。


「岩ちゃんと上手くいってるみたいだね?」


にやり。すぐそこにいた及川くんは、なんとも悪戯っぽく口角を上げた。どうやら遊びに来たらしい。にしても、距離が近すぎやしませんか。「おかげさまで」と答えながら一歩下がる。低身長な私に合わせて屈んでくれているのは分かるし有難いんだけど、あまりに顔が近い。


「いやー、ほんと仲介した甲斐があったよ。まさかあの岩ちゃんがあんなデレデレになるなんてねー」
「誰がデレデレだ」
「うわあ岩ちゃん!ビックリしたぁー……戻って来るの早くない?」
「なまえに絡んでんのが見えたからな」
「何、みょうじちゃん専用レーダーでも搭載してんの?」
「してるかボケ。つか近ぇ。離れろ」
「あっれれー、ヤキモチ?ねえそれもしかしてヤキモチ?」
「うるせえな……」


明らかにからかって遊んでいるだけの及川くんと私の間に、半身だけ割って入ったはじめくんが、呆れ混じりの息を吐く。まあ、真面目に取り合うような真似はしないだろうけど、ヤキモチだったら嬉しいなあ。なんて思った矢先。鼓膜に飛び込んできたのは、私の熱をぶわっと上げる拗ねたような声。


「だったら何だクソ及川」