ハッピーバースデー



いつもより早く起きた朝。
眠気を携えつつ持ち物をチェックして、電車へ乗り込む。欠伸を噛み殺しながら見た画面には、新着メッセージが一件。きっと今起きたんだろう。日付が変わった瞬間に送った『誕生日おめでとう』に『毎年ありがとな』って、返事が来ていた。


六月十日。
梅雨入り前の今日は、三年前から付き合っているはじめの誕生日であり、私が一年で一番早起きする日である。理由は簡単。こっそりプレゼントを渡せる時間が、朝練前しかないからだ。

なんせはじめは、強豪バレーボール部を支えるエースで、部内一の男前。おまけに律儀で面倒見も良く、後輩はもちろん、男女ともに人気が高い。常に誰かが傍にいて賑わっている状態が日がな一日続くのは、当然と言えば当然だった。友達ならまだ一緒になって祝うことも出来たけれど、あくまで私は恋人。思春期真只中な皆の前でプレゼントを渡そうものなら、即冷やかされてしまう。それだけは何としてでも避けたかったし、放課後に待っている部員との時間を削らせたくもなかった。気にしなくていいとはじめは言ってくれるけれど、私が気になるのだ。彼女だから優遇してほしいわけではなく、いつも通りのはじめでいて欲しかった。

そんなわけで部室前に座ってぼーっと待ちながら、つくづく冬じゃなくて良かったと思う。雪だるま状態で凍死なんて絶対に嫌だ。息を吐いたところで、例年通り二人の姿が見えた。


「おっはよーなまえちゃん!」
「悪ぃ。待たせた」
「おはよ。全然待ってないよ。早かったね」
「いやー岩ちゃんがさ、なまえちゃんが待ってるから早くってうるさぐふぉっ!!」
「朝からべらべらうるせえ」
「痛いよ岩ちゃん…」
「ふふ、急いで来てくれたの?」
「……女待たすわけにいかねえだろ」
「ありがと」


口を尖らせた照れくさそうな表情に、頬が綻ぶ。なんだか申し訳ないけれど、大事にしてもらえているのは素直に嬉しい。とはいえ、あまり手間取らせるわけにもいかない。及川が部室へ入ったところで、カバンから紙袋を取り出す。「誕生日おめでとう」と差し出せば、はじめの瞳が大きく瞬いて、それから至極嬉しそうに笑った。